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おしえて!研究者さん

なぜ今、再生可能エネルギーが注目されているのですか?

はじめに

浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドで再生可能エネルギーから製造した水素が2020年東京オリンピック・パラリンピックの聖火台の火を灯し、世界中から注目されました。
福島県は「福島新エネ社会構想」により2040年頃までに県内のエネルギー需要の100%以上を再生可能エネルギーにより供給するという目標を掲げており、浪江町の事例のほかにも県内の各所で太陽光発電や風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電などが急速に増えています。
なぜ、ここ数年で急に再生可能エネルギーが注目されるようになったのでしょうか?

東日本大震災の影響

まず一つ目に、東日本大震災が国民のエネルギーに関する意識に大きく影響しました。
東日本大震災では、地震による被害がそれほど大きくない地域でも広域に渡ってエネルギー供給が停止しました。
このため国土を覆う大規模なエネルギー供給網の災害時の脆弱性が示され、各々の地域内で自然からエネルギーを得ることの価値が改めて認識されました。

夜景の写真

また、東日本大震災では原子力発電所の事故が発生し、広域の避難指示や輪番停電、電力使用制限などが生じたことも国民がエネルギー供給の問題に関心を持つきっかけになりました。
この時は多くの国民が電力ピーク時の節電に協力し、国民の意識改革につながったと言えます。
こうした経験は自宅の屋根に太陽光発電を設置する動機の一つになっていると考えられます。

国際的な取り組みの動向

二つ目の要因として、2015年に温室効果ガス排出削減等のための国際枠組みとしてパリ協定が採択されたこと、さらに各国によるカーボンニュートラル宣言など、国際的な取り組みが強まったことが挙げられます。
パリ協定以前には1997年に採択された京都議定書がありましたが、この時の日本の温室効果ガス排出量の削減目標は第一約束期間(2008~2012年度)において1990年比で6%削減でした。
これに対し、パリ協定以降の国際的動向を踏まえ、我が国でも、一昨年に菅総理(当時)が2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出を実質ゼロ)を宣言し、現在では、これが目標となっています。
このように目標が大きく異なるため、対策も延長線上にはありません。

環境について会議する人たちの写真

京都議定書の対応では、例えば冷暖房温度の見直しや公共交通機関の利用促進といった省エネルギー行動の推進が重要な位置づけでした。
しかし、省エネルギー行動による削減はほぼ限界であるため、2050年までのカーボンニュートラルの目標達成には、より抜本的な対策が必要になります。
このため、パリ協定の採択以降、再生可能エネルギー導入促進がますます重要なターゲットになってきました。

エネルギーに関する制度面の変革

三つ目の要因として、制度面の改変が国内の事業者へ大きく影響していることが挙げられます。
まず再生可能エネルギーの固定価格買取制度は2009年に太陽光発電の余剰電力の買取を開始、2012年には全量買取が開始されたことにより、大規模な太陽光発電や風力発電の導入が加速化されました。
さらに直近の状況では、当初導入された設備の買取期間満了に向けて、一括売電ではなく地域内で有効に利用する検討も始まっています。
また、2016年に低圧電力の小売自由化が開始され、地域新電力会社が再生可能エネルギーを活用して、地域活性化と脱炭素化を目指す事例が増えています。

純水素燃料電池の写真

写真1 道の駅なみえに設置された純水素燃料電池システムの水素供給装置。太陽光発電により製造された水素により施設への電力供給を行う。

地域におけるエネルギーの地産地消

こうした一連の動向の中で、最近はとくに国全体のCO2排出量を抑制するだけでなく、エネルギーを生産した地域で消費するエネルギーの地産地消の取り組みが重要となってきました。
これは地域内で雇用を創出し、また地域外から購入する化石燃料起源のエネルギーを減らすことから、環境だけでなく地域経済循環にもプラスの効果があります。

新地エネルギーセンターに設置された太陽光発電パネルの写真

写真2 新地エネルギーセンターに設置された太陽光発電パネル。新地駅周辺の電熱併給型地域エネルギー供給において活用されている。

現在は各地で人口減少が進み、地域コミュニティの衰退や環境負荷の増大が懸念される中で、さまざまな環境資源や経済を地域内で循環させる自立型の地域づくりが必要とされています。
その一環として、有用な地域資源の一つである再生可能エネルギーを活用し、持続可能な地域社会を構築することが今後ますます重要になると考えています。

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参考文献

  • 小端拓郎 編著『都市の脱炭素化』大河出版, 2021.
  • 独立行政法人国立環境研究所地球環境研究センター 編著『地球温暖化の事典』丸善出版,2014.