分子生物学者が野外調査にでたら…ポンコツだった|FRECC+(ふくしまから地域と環境の未来を考えるWEBマガジン)

分子生物学者が野外調査にでたら…ポンコツだった

環境研究のもう一つの現場イメージイラスト
環境研究のもう一つの現場イメージイラスト

    目次

  1. コシアブラとの再会
  2. ここはどこ?コシアブラはどれ?
  3. 根っこは続くよどこまでも
  4. 参考文献
  5. より専門的に知りたい人はこちら

コシアブラとの再会

私たちは、野生の山菜類やキノコ類の放射性セシウム濃度がなぜ高いのか?これを低減する方法はないのか?について研究を行っています。

野生の山菜の中でもコシアブラ新芽の放射性セシウム濃度は他の山菜に比べ高いことがわかっています。

「コシアブラ」との出会いは二度目です。
2006年の米国留学時に高濃度では有害だが必須元素でもある「セレン」を高い濃度で体内に溜め込む植物の研究をしていました。

このような植物はハイパーアキュミレーターと呼ばれ、コシアブラも「マンガン」を非常に高い濃度で蓄積するハイパーアキュミレーターです。

帰国後、この植物の研究をしたいなと考えていましたが、タイミングが悪くそれは叶いませんでした。

そして、その名前を忘れかけた頃、彼女は再び私の前に現れました。

きっと私は「コシアブラ」を研究する運命だったのだろう。

今度はちゃんと取り組もう!
本稿では福島県でのコシアブラ調査の現場の様子を、「私の目線」で紹介します。

コシアブラの新芽の写真

コシアブラの新芽(2019年5月に飯舘村にて撮影)

ここはどこ?コシアブラはどれ?

調査は福島県飯舘村の山林内で行っています。

まず対象とする野生のコシアブラを決めないと調査は始まりません。

調査開始当初から2つの問題に直面しました。

調査地で自分の位置が分からなくなることと、野生のコシアブラを見分けることができない問題です。

調査は複数人で野生のコシアブラを探すことから始めましたが、固まって探していては効率が悪いので、バラバラになって山中を探し回ります。

探し始めは鎖から解き放たれた番犬のように、勢いよく山を歩き回り、コシアブラを見つけてはテープで目印をつけ、GPSで位置情報を記録します。

ピンクのテープで目印のついてコシアブラの写真

テープで目印をつけられたコシアブラ

そろそろ皆と合流しようかな?と自分の当たらない勘で往路と思われる道を引き返します。

ですがこれまでに一直線で元の場所に帰れたためしがありません。

山中には目印がない!まだ遭難したことはないですが、GPSがあってもなお、山中での調査は要注意です。

そして、「コシアブラを見つけ」と書きましたが、これは共同研究者に確認してわかったことで、私が「これはコシアブラだ!」と断言した木は半分くらいの確率で他の樹木でした。

自慢ではないですがこの調査を始めるまでコシアブラの実物を見たことがありませんでした。

図鑑で見た記憶の中のコシアブラと判断した樹木にはヤマウルシという違う和名がついていました。

こんな感じで、コシアブラ調査が開始されました。

根っこは続くよどこまでも

では何故コシアブラは他の山菜に比べて放射性セシウムを蓄積しやすいのでしょうか?

これにはいくつかの仮説がありますが、私たちは「コシアブラは根を浅く張るため、放射性セシウムを吸収しやすい」という仮説に着目して研究を進めています。

コシアブラの根の採取の写真

コシアブラの根の採取の様子(2021年7月に飯舘村にて撮影)

土壌中の放射性セシウムは表層から10cm以内にそのほとんどが留まっています。

つまり、コシアブラの根の分布と放射性セシウム濃度の高い土壌層が一致しており、そこから養分を吸収していることが原因ではないかと考えました。

それを調べる方法は至ってシンプル簡単です。
根を掘り返してコシアブラの根が土壌中のどの部分に分布しているのかを観察すれば良いのです。

ですが、これが予想以上に大変でした。

コシアブラは根を3〜4方向に伸ばしていますが、1 m程度の高さのコシアブラでも根の長さはその2倍以上あり、さらに先へ行くほど細くなっているため根を切らないように慎重に作業を進める必要があります。

コシアブラの根の採取の写真

また、石や他の木の根の下を潜り抜けている場合もあり、上から掘るのが困難な場所もありました。

もちろん土壌の分析も必要なので、深さ方向に30〜50 cm程度の土壌をくり抜いて持ち帰ったりもします。

2022年度は60箇所でこの作業をします。
いつかこの苦労も報われるだろうと願いつつ、春から秋にかけてこのような作業を福島の山の中で延々とやっています。

参考文献

より専門的に知りたい人はこちら

  • Sugiura Y., Kanasashi T., Ogata Y., Ozawa H., Takenaka T. (2016) Radiocesium accumulation properties of Chengiopanax sciadophylloides. Journal of Environmental Radioactivity, 151, 250-257
  • 清野嘉之、赤間亮夫‬ (2022) 細根の深さは‪土壌から植物へのセシウム137 とセシウム133の移行の違いに影響する‬. 森林総合研究所研究報告, 21, 39-47
  • 小川秀樹、櫻井哲史、手代木徳弘、吉田博久 (2021) コシアブラ樹体内における福島第一原子力発電所事故由来137Cs分布と葉の高濃度化の要因について.日本森林学会誌, 103, 192-199.
この記事を書いた人

玉置 雅紀

福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室 室長

名古屋大学大学院農学研究科で学位取得後、1998年より国立環境研究所に入所。専門は植物生理学、遺伝学、分子生物学で基本的には実験室で黙々と実験をする研究スタイルだった。2006年の米国留学時に重金属集積植物の野外調査を体験してからは、帰国後も東京湾でのアオサ調査やカイヤドリウミグモ調査、愛知県の外来植物調査など野外調査も行うようになり、2016年に福島拠点に着任してからは野外調査がメインになっている。しかし、相変わらず”野外調査では輝けない男”と言われ、同行者の足を引っ張っている。

プロフィール写真 玉置雅紀

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