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地球規模の気候影響予測

気候変動適応

2024/03/258分で読めます

#研究紹介 #気候変動

気候変動というのは地球規模で起きる問題であるため、その影響の予測についても地球規模で行うことが必要です。また、気候変動による影響は既に起こっているものもありますが、今後数十年から数百年先に亘って影響を引き起こすため、長期的な予測を行うことも必要になります。このような地球規模の長期的な影響の予測はどのように実施するのでしょうか?

まず、気候変動の影響を考える上で役に立つのが「災害外力(Hazard)」、「曝露(Exposure)」、「脆弱性(Vulnerability)」という概念です。まず、「災害外力」というのは、「猛暑日になる」「大雨が降る」といった気候変動影響の原因となる気象条件や物理的現象そのものを意味します。気候変動による影響を考えるのであれば、この災害外力の情報が必要であるということは分かりやすいと思います。しかし、気候変動による影響は、この災害外力だけでは決まりません。たとえば、ある場所が猛暑日であったとしても、そこに人が住んでいなかったとしたら人に対する影響は生じません。影響を受ける対象(たとえば人)が災害外力に曝されることを「曝露」と言います(秘密を公にするという意味の暴露とは意味も漢字も違うので気をつけてください)。世界全体を見回すと、人が密集して住んでいる地域もあれば全く人が住んでいない地域もあり、このような違いも考慮することが必要になります。そして、暑い場所に人が住んでいたとしても、その人がお金持ちでエアコンを使える環境にある人(あるいは逆に貧しくてエアコンを使えない環境にある人)だったらどうでしょうか? 同じ災害外力に曝露しても、影響の受けやすさは異なっています。このような、対象の影響の受けやすさのことを「脆弱性」と呼びます。そして、災害外力・曝露・脆弱性の3つの要因が重なったときに気候変動の影響が生じることになります。

さて、災害外力・曝露・脆弱性の3つの項目があれば気候変動の影響を予測できるとして、定量的な予測をするためには、これらの項目は具体的に数値として表すことが必要です。そのため、気候変動の影響予測では多くの場合、モデルと呼ばれる数式とシナリオと呼ばれる予 測の前提条件とを用いることで定量的な予測計算を行います(図1)。統合評価モデルであるAIMにも、このように複数の要因を考慮して影響予測を行うことができるモデルが含まれています。たとえば、災害外力を計算するために、大気中の温室効果ガスの濃度が2倍になったときに気候がどのように変化するかを知りたいとします。一番単純なのは、実際に試してみる(実際に地球の大気中に温室効果ガスをわざと充満させて気候がどう変化するかを観察する)というやり方ですが、これは現実的ではありません。その代わりに、このような問いに答えたい場合には、気候に関係する様々な現象を支配する物理法則を表す数式を解くことによって計算します。この「物理法則を表す数式」は、実際の現象そのものではありませんが、実際の現象を表したものであり、これを「モデル」と呼びます。一方で、現象を支配する物理法則が分かっていなかったり、数式で表すことが難しかったりする場合もあります。たとえば、気温が上がると生ビールの売上げも上がるという関係を支配する物理法則を数式で表す事は非常に困難です。しかし、過去の経験として気温がこのくらいの時には、生ビールの売上げがこのくらいだった、という統計的な関係性を表す数式については作ることができます。この「統計的な関係を表す数式」も、実際の現象そのものではありませんが、実際の現象を表したものであり、これも「モデル」と呼びます(物理法則を表す数式をプロセスモデル、統計的な関係を表す数式を統計的モデルと呼んで両者を区別するときもあります)。プロセスモデルにしろ、統計的モデルにしろ、現象そのものを表したものではなく、あくまで現象を模擬するものであるため、必ずしも現象を完璧な精度で予測することができるわけではありません。しかし、うまく使えば、十分に役に立つ精度で現象を予測することは可能です。一般にはこういったモデルを複数組み合わせて使います。