1.災害と地域づくり
災害と地域づくりは切っても切り離せない関係にあります。戦災まで含めると世界各国の地域は、災害で何度も何度も人命を奪われ、ときに移動を余儀なくされ、ときに同じ地域で復興を遂げてきました。日本に目を向けると、ここ1世紀で起きた大きな災害だけでも、関東大震災(1923年)、第二次世界大戦による戦災(1945年ごろ)、伊勢湾台風(1959年)、阪神淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)および福島第一原子力発電所事故災害を経験しました。現在は、特殊災害に分類される新型コロナウイルス感染症パンデミックの渦中です。1918~1919年にスペイン風邪が流行したこともあります。災害のたびに、教訓を得て復興に向けた地域づくりを進めてきた歴史があります。
一方で、地域づくりは、普段の生活の基盤を創りだす営みです。その中で、災害を想定しながら、生活の質を高める対策を蓄積していくことが重要です。例えば、防災施設や災害時の地産地消型エネルギー拠点等のインフラ整備は重要です。その整備の際に、ハード面に地域の特性にあわせたデザインをすることやコミュニティの意識醸成を含めた関係者(ステークホルダー)の参画により対話と協働を通じた地域づくりのソフトな基盤づくりをしていくことが望ましいといえます。災害のないときに関係者でコミュニケーションをしながら地域づくりをしておくことで、いざ災害が起こった際に、適切な対応が取れ、強靭さ(レジリエンス)を高めることができます。本特集は、今後重要になると考えられるキーワードを選び、解説します。
2.地域循環共生圏地域循環共生圏(ローカルSDGs)
地域循環共生圏という考え方をもとに地域づくりを行うことは、災害時のレジリエンス強化の観点からも重要です。これは、第五次環境基本計画(2018年閣議決定)で提唱された、各地域が自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支えあう考え方です。農山漁村および都市の各地域を主体にしつつ、近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワークとして、自然的なつながり(森・里・川・海の連関)や経済的つながり(人、資金等)を構築していくことで、新たなバリューチェーンを生み出すことを志向しているため、ステークホルダーが自然と地域との関係を見つめ直し、より持続可能な地域づくりを進める契機になります。
また、地域循環共生圏は、SDGsを地域で実装(ローカライズ)し、その達成に向かう取り組みと考え方とも捉えられています。各地域がSDGsの17のゴールと169のターゲットの達成をバックキャスティングで検討することで、ステークホルダーの目指す地域のあり方を見据えることができます。災害と直接的に関連する目標として、目標11「住み続けられるまちづくりを」の中で、「災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画」の導入をターゲットとしています。それ以外でも貧困、水環境などが災害と関連する重要項目となります。
3.環境・社会・経済で考えるトリプルボトムライン
SDGsの理念を用いて地域づくりを考える取り組みは、各地で見られます。ただ、17のゴールと169のターゲットを同時に考え、理解するのは大変な労力がいります。そこで、より少ない分類でとらえる方法があります。もともと持続可能な社会を目指す際に用いられたトリプルボトムラインという考え方です。これは、個人、所属する組織、地域、国の活動や事業などを評価する際に環境・社会・経済的側面の3つの観点から整理するものです。主に、企業活動の評価で活用されることが多かった観点ですが、SDGsの策定に大きく貢献した科学者ヨハン・ロックストローム氏は、SDGsの17のゴールをトリプルボトムラインの3つの層で整理したSDGsウェディングケーキ(図)を提唱しています。3つの層は、生物圏(環境的側面にかかわるゴール)が土台にあり、そのうえに社会圏(社会的側面にかかわるゴール)があり、そこに経済圏(経済的側面にかかわるゴール)が乗っかっており、順番にも意味を持たせています。いずれにせよ、地域づくりには、様々な観点を検討する必要がありますが、環境・社会・経済的側面から考えることは基本となります。