研究の概要
災害が起こった時に問題となる社会への影響、環境への影響は、十分な備えがなければ重篤な状況になりかねません。災害時に環境や社会のダメージを出来るだけ低減できる社会(減災社会)、いち早く回復・再生するための社会の強靭性とはどのようなものでしょうか。
災害環境マネジメント研究プログラムでは、将来の発生が予想される災害への備えとして、資源循環・廃棄物マネジメントの強靭化(PJ1)や環境・健康リスク管理戦略の確立(PJ2)、人材育成やネットワークの構築(PJ3)に向けた研究を行っています。
災害による環境の影響度合いやその回復の進捗は、災害による外力と社会の対応力(環境防災・減災力)に左右されます。
私たちは、東日本大震災等に関する検証調査を通じて、災害と環境・社会の間の相互関係を体系的に明らかにするとともに、今後地震等の災害が発生した際に環境リスクをできるだけ低減するために、どのような技術・手法や制度・体制が必要か具体的な対策を提示し、国や自治体・地域と連携して実践することにより、災害に対して強靭な社会を創っていくことが大切だと考えています。
PJ1:災害時の資源循環・廃棄物マネジメントの強靭化戦略
■東日本大震災等の実績値を用いて検証を行い、災害特性・地域特性、処理フロー等に応じた災害廃棄物の量と質(組成等)の推定手法の開発・モデル化を行います。
■東日本大震災での処理技術・フローを多角的に検証・実証し、災害廃棄物の発生特性に応じた最適な処理技術システム、復旧・復興と連動した災害廃棄物等の復興資材としての利活用方策、自立分散型の生活排水処理システムなどを開発し提示します。
■東日本大震災・原発災害での災害・汚染廃棄物処理に関する制度・マネジメントを、組織・人・モノ・情報・資金など様々な観点から検証し、災害対策の各局面(災害前~災害直後~復旧)に応じた対応のあり方を提示します。
PJ2:災害時の環境・健康リスク管理戦略
■災害時から平常時に至る時間とともに変化しうる戦略的リスク管理目標について、対象物質の選定や管理水準の検討を科学的・社会的視点の考察などに基づいて進め、リスク管理目標のあり方を提示します。
■災害時の調査分析方法に関して、被災現地調査も進めつつ、大気・室内環境の調査手法や、懸念の可能性のある多数の物質を短時間で探索的に分析する分析・調査方法(探索的・迅速分析手法)を開発・体系化し、現場調査への応用を目指します。
■災害時の環境・健康リスク管理を支える体制のあり方に関して、米国等海外での災害時対応に関する事例調査を行うとともに、地方環境研究所との連携協力も進め、これらをあわせて国内での災害時環境管理体制構築に向けた活動を展開します。
PJ3:災害環境研究ネットワークの拠点化
■今回の震災対応を通じて国・自治体・民間等の様々な主体が得た貴重な経験・知識・能力を継承し、今後の災害対応に活かすべく、自治体等実務者に有用な情報プラットフォームの構築・発信、災害時に適切な対応ができる人材育成プログラムの開発・実践、各主体の垣根を越えた交流・連携を可能とする人的ネットワークの構築を進めます。
■これらの取組を通じて災害環境学の確立を目指し、「福島県環境創造センター」「国立環境研究所福島地域協働研究拠点」をその国内・国際拠点とします。
研究の成果
1.災害廃棄物への対応
国の集計(平成25年5月末現在)によると、災害廃棄物の推計量は東北3県(岩手・宮城・福島)の沿岸37市町村合計で約1,600万トンで、この数値は、全国で1年間に発生する一般廃棄物量の約4割弱に相当します。その多くは津波により海水を被り、また、津波堆積物(海底から打ち上げられた土砂や泥等)も3県で約1,000万トンあると推計されています。
国環研は、資源循環・廃棄物分野における廃棄物の適正処理やリサイクルの問題など多様な課題に総合的に取り組んできました。今般の災害廃棄物の問題にも、これまで培ってきた豊富な知見や専門性、専門家のネットワークを最大限活用し、環境省等とも連携して、被災地における災害廃棄物の適切な処理処分の推進に貢献してきました。
◆現在進行中の活動も含めた、大震災から2年間の研究を以下のPDFにまとめていますのでご覧下さい。(平成25年7月)
◆「国立環境研究所 東日本大震災後の災害環境研究と成果」(平成25年3月)の以下の箇所にも活動概要と成果事例が記載されていますので、こちらのPDFもご覧下さい。
(1) 震災対応ネットワークによる経験知の集約と被災地への発信(震災直後~平成23年)
地震や津波により発生した大量かつ多種多様な災害廃棄物は、震災が発生し日が経つにつれて様々な技術的課題が出てきました。しかし、被災地の現場では基礎情報や知見・データ等が絶対的に不足し、自治体等関係者及び環境省がその対応に苦慮していました。
そこで、震災1週間後に専門家等で構成する「震災対応ネットワーク」を立ち上げ、現場で生じる様々な技術的課題に応じて情報・知見を集約・整理し、平成23年を中心に、塩分を含んだ廃棄物の処理方法、津波堆積物への対応、仮置場の可燃性廃棄物の火災予防等に関する各種技術情報(下記参照)を作成・提供し、環境省や被災地自治体等による現地対応を支援しました。
【災害廃棄物に関する自治体担当者・専門家向け各種技術情報】(PDF一覧)
- 仮置場の可燃性廃棄物の火災予防(第二報補遺)(平成23年12月22日)
- 仮置場の可燃性廃棄物の火災予防(第二報)(平成23年9月19日)
- 災害廃棄物の発生原単位について(第一報)(平成23年6月28日)
- 廃石膏ボードの取り扱いについて(平成23年6月24日)
- 津波被災地域において浄化槽を撤去する際の汚泥の処理方法について(第一報)(平成23年5月30日)
- 仮置場の可燃性廃棄物の火災予防(第一報)(平成23年5月18日)
- 災害廃棄物の野焼きについて(第一報)(平成23年4月12日)
- 津波堆積物への対応について(第二報)(平成23年4月6日)
- 下水の処理方法について(第一報)(平成23年4月5日)
- 災害廃棄物の重量容積変換について(第一報)(平成23年4月1日)
- PCB含有廃棄物について(第一報:改訂版)(平成23年4月1日)
- 津波がもたらしたヘドロへの対応について(第一報)(平成23年4月1日)
- 仮置場の設置と留意事項(第一報)(平成23年4月1日)
- 塩分を含んだ廃棄物の処理方法について(第三報)(平成23年3月30日)
- 水産廃棄物の処理方法について(第二報)(平成23年3月27日)
(2) 現場重視の緊急調査研究による新たな知見の集積と現場への還元(平成23年度)
被災地での災害廃棄物の実態が徐々に明らかになるにつれて、それまでの知見ではカバーできない技術的課題への対応が必要となりました。
そこで、震災発生約3週間後の平成23年4月初め頃から、関係学会等とも連携しつつ現地調査を開始し、平成23年度を中心に、海水被り瓦礫や津波堆積物の適正処理、仮置場火災防止等に関する緊急的調査研究を実施し、環境省通知等に適宜反映されました。さらに、環境省が編成する巡回チーム等に研究者を派遣し、災害廃棄物仮置場火災予防など個別課題への現地調査・技術的助言を精力的に実施しました。
(3) 現在進行中の調査研究活動と今後の展開(平成24年度~)
災害廃棄物については、平成25年度中の処理完了に向けて、関係自治体や国等の取組により順次処理が進められましたが、今後は、災害廃棄物処理残渣や全国各地の建設系産業系副産物の復興資材としての再利用の検討が重要になってくると考えられます。
また、今後、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震などによる大規模災害の発生も懸念されており、東日本大震災の教訓を十分踏まえた上で、将来の大規模災害に備えた対策を講じる必要があります。
これらの課題に対応するため、国環研では現在、東日本大震災への貢献とともに今後の災害に対する備えへの貢献を果たすため、災害時における生活排水の分散型(浄化槽)処理システム、災害廃棄物の量的質的推計・管理システム、災害廃棄物の中間処理技術・システム、災害廃棄物・建設産業系副産物の復興資材への利活用技術、災害廃棄物処理に関する制度・計画・マネジメントなどの調査研究を鋭意実施しております。
2.地震・津波災害に起因する様々な環境変化とその影響の調査・予測
国立環境研究所の持つ研究ネットワークを活用して、宮城県など被災地の環境研究所等と協力し、「避難所等における大気浮遊粉じん濃度の調査」など、震災により生じた環境、生態系の変化や有害物質による汚染状況等についての様々な調査・研究を行っています。また、全国の自治体の環境研究所と協力して「災害と環境」をテーマとする交流シンポジウムを開催しました。2012年5月には福島県において「環境放射能除染学会」と共催で「復旧・復興ワークショップ」を開催しました。さらに、国立環境研究所の立地するつくば市内の放射線観測についても関係研究機関、自治体と協力しながら実施しています。
この他にも、例えば下記のようなテーマの研究が進められており、その成果が2012年の公開シンポジウムでポスター発表されていますので次のPDFをご参照下さい。