行政という現場
環境研究の「現場」と言うと、様々な生き物がいる山・川・海や、環境に影響を与える物質を出している工場・開発現場が思い浮かぶでしょうか。
環境研究では、もう一つの大切な現場があります。
それは、 「環境」という公的なものを一人一人の市民にかわって守る行政が執り行われる場です。
ここでは、災害時に発生する災害廃棄物処理を担当する、市町村の廃棄物担当部局の実態について紹介します。
多忙な市町村職員
災害が起きると、大量の災害廃棄物が発生します。法律では、災害廃棄物の処理を行うのは市町村の責任とされています。
しかし、同じ市町村で災害廃棄物が定期的に発生するわけではないことから、多くの市町村では災害廃棄物を処理することに慣れていません。
このため、災害が起きた時にスムーズに対応するには、普段から準備を進める必要があります。
国でも、事前準備の計画である「災害廃棄物処理計画」(以下、処理計画)を作るべし、と指導しています。
図1は、市町村を人口規模でグループ化して、処理計画の策定率(令和3年3月末現在の状況)を整理したものです。
規模の小さい市町村ほど、処理計画ができていない実態が分かります。
こうした市町村に策定できない理由として、人手・時間が足りないことと、ノウハウがないことがしばしば挙げられます。
例えば、図2のような調査結果があります。
市町村の廃棄物担当部局に、現在の職員数と適正だと思う職員数を尋ね、その比を縦軸に、人口を横軸にとった図です。
100%よりも低い値を示している場合は、適正だと思う職員数よりも実際の職員数は少ない状況にあることを意味します。
人口規模が小さくなるほど、「職員が足りていない」と認識する市町村の数が増えている様子が分かります。
それでは、なぜこのような結果が出ているのでしょうか。
まず、廃棄物関連の仕事の多さに比べて職員数が少ないという状況があります。
廃棄物担当部局では、ごみ処理や3Rに関する様々な計画づくりと見直し、国や調査機関から来る調査依頼(統計情報の報告等)への対応、廃棄物処理に関係する他の行政団体(都道府県など)との連絡調整、住民からの問い合わせへの対応(放置されたごみの回収など)、住民啓発事業(説明会の開催やチラシ作りなど)、ごみの収集運搬・処理・最終処分に関する実務または実務委託先との協議や関連する契約事務など、様々な仕事に取組む必要があります。
これに対して、人口1万人未満の市町村の多くは担当者が1~2名という状況です。
もう一つは、小規模市町村では、廃棄物担当部局が他の仕事も担当する場合も少なくないことも指摘できます。
例えば、人口約9,000人の福島県国見町では、住民防災課環境防災係がごみ処理や3Rに関することを担当しつつ、防災のこと、食品衛生のこと、男女共同参画のこと、町内会に関することなど、かなり幅広い仕事を担当することになっています。
忙しい中でも対策できるように
こうした「現場」の状況を無視して、災害廃棄物処理のためにはあれもこれも大切だという研究成果を出しても、小規模自治体では参考とされないことが容易に想像できます。
そうならないよう、国立環境研究所では、市町村廃棄物担当部署の実態を加味しつつ、災害廃棄物対策を進めるための研究に取り組んでいます。
例えば、「小規模市町村でもこれだけは取組むべき!」という災害廃棄物対策に着実に取り組めるよう、現状評価と今後の計画立案をオンラインで行えるマネジメントツールSai-hai(図3)を開発し、公開しました。
より災害に強い社会・環境が実現されるために、今後も「現場」重視で研究に取り組んでいきます。
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参考文献
- 鈴木慎也・多島良・森朋子・浅利美鈴・立藤綾子 (2020) 災害廃棄物処理の観点から整理した平時の廃棄物関連業務の実態. 第31回廃棄物資源循環学会研究発表会講演集, 125-126