化学事故時に必要となる情報
私たちの研究グループでは、化学物質を対象として緊急時のリスク管理に取り組んでいます。
事故や災害の現場の化学物質を分析し汚染状況を調査する、といった内容もありますが、私自身はデスクワークが中心で、緊急時に活用するために化学物質の放出事故に関する情報の収集・整備を行っています。
緊急時に適切な情報を提供することの重要性は、過去の災害においても認識されています。
2011年の東日本大震災では、災害対応を行う多数の組織から情報が発信されていたものの、それらを一元管理し災害現場へ共有することができなかったため、十分な支援活動が行えない状況が発生したといわれています1)。
化学物質に関しても、緊急対応を考えるために必要となる情報(例えば、その地域に存在する物質、その貯蔵量や有害性、環境中濃度など)は様々な機関により公表されています。
必ずしも直接的な内容でなくとも、知りたい情報を類推するための情報や手法が掲載されていることもあります。
しかしながら、これらの情報の所在や含まれる内容、データ形式は様々に異なっているため、緊急時に有効に活用できるよう整備されているとは言えません。
環境リスク管理のための情報の収集
事故時の化学物質放出による環境リスク管理に活用するため、「化学物質」自体の情報と「放出事故」に関する情報の、主に2種類の情報収集を行っています。
化学物質については、各種のwebページや文献・書籍等からの収集が中心で、放出事故についてはアンケートやヒアリング調査により情報収集を実施しています。
化学物質といっても対象は様々で、事故時には国内で製造・流通している全ての化学物質に放出の可能性があります。
通常、化学物質は複数の法令による枠組みで管理されており、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」で製造量が届出されている数千の化学物質のほか、農薬や医薬品のように用途に応じて管理される物質、毒物・劇物のように健康への有害性の程度により管理される物質、危険物のように引火性や爆発性などにより管理される物質など、多岐にわたります。
異なる法令で管理される物質は、その目的によって収集・公表されている情報も異なっており、必ずしも緊急時に必要な情報とは限りません。
法令とは別の枠組みで化学物質情報を公開している情報源も多数存在します。
このような情報群の中から活用可能な情報を探し出す必要があります。
事故については、過去の事例をまとめたデータベースはいくつか存在しますが、化学物質の放出に関する詳細情報、特に、事業所外の一般環境における化学物質リスクの観点で事故推移がまとめられた資料は限られています。
そのため、放出事故に関する情報収集では、より詳細な情報を得るため、当該事業者に対するアンケート調査を実施しています。
協力が得られた場合には、ヒアリング調査として現地に伺ったり、オンライン会議システムで話を聞くこともあります。
実際に現場対応した方からの意見は貴重であり、事故時における環境対応への配慮の難しさを実感します。
収集データの整備
各種の情報源から抽出した情報はデータ化を行います。
多くの場合、事故や災害の発生時に、初期情報として得られる情報は限定的です。
そのため、データ化した情報を紐づけて、関連情報を迅速に引き出せるよう整備しておく必要があります(図1)。
例えば、対象物質が特定できない場合には、過去の類似の事故経験からの物質の推測や、有害性等の指標により広範な候補物質から優先順位付けを行い、対応することが考えられます。
事故対応においては、地図データや気象データとの紐づけも重要になります。
地震や水害など広範囲に影響が及ぶ災害の場合には、地域レベルの情報が必要になり、その規模に応じた様々なスケール感での情報の作成が必要となることもあります。
様々な状況に活用可能な形にデータを整備するのは簡単な作業ではないですが、緊急時に迅速に対応するためのデータづくりの仕組みを考えながら、研究を進めています。
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参考文献
- 総務省 (2021) 令和3年版 情報通信白書, 259-260