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研究の現場から

自動撮影装置を発明して田んぼの赤とんぼを調査する

意外に大変!?赤とんぼの調査

秋の風物詩の赤とんぼ、田んぼのまわりでよく見ることができますが、日本のあちこちで数が減っているようです。
農薬の影響等が心配されていますが、原発事故で田んぼが減ってしまった福島県ではどうなっているのでしょうか?

悩ましいことにその実態を調べるのは簡単ではありません。
例えば、天気が悪かったりするとすぐトンボは隠れてしまいます。
しかも、科学的に調査結果を分析するには、それなりの期間、色々な場所で調べる必要があります。

ずっとトンボを観察して記録してくれる、そんな装置が簡単にたくさん用意できれば…。
そんな課題を解決するための筆者らの取り組みについて紹介したいと思います。

枝の先端にとまるトンボ

自動撮影装置の発明

体が大きく体温が高い哺乳類では、熱源に反応する赤外線センサー付き自動撮影カメラによる調査法が知られています。
自動撮影ならトンボ類も効率よく調査ができそうですが、体温が外気温に影響を受けやすい昆虫類では赤外線センサーを用いた方法は相性がよくなさそうです。

一方、赤とんぼ類はよく棒の先に止まる性質があります。
この時に棒の先にできるトンボの影を光センサーによって検知し、自動撮影につなげることができるのではないかと考えました。

筆者自身は電気機器の専門家ではないのですが、所内の電子工作や光学機器に詳しい共同研究者のおかげで、CdSセルという非常に安価な光センサー部品を用いて実際に動く装置をつくることができました。
このアイデアは職務発明として、特許も認められました。

つくばの研究所に設置された自動撮影装置及び自動撮影されたアキアカネと思われる赤とんぼの写真

つくばの研究所に設置された自動撮影装置及び自動撮影されたアキアカネと思われる赤とんぼ

田んぼでの調査

2018年からは福島県農業総合センターの方々が生き物調査を行っている田んぼに、自動撮影装置も設置させて頂くことができるようになりました。
その中には避難指示が解除された後に米作りが再開された田んぼも含まれています。

秋期を通して設置することによって、赤とんぼを人が数えることによる調査結果と自動撮影による調査の結果は概ね一致していることがわかりつつあります。
加えて、避難指示解除後に再開された田んぼでもたくさんの赤とんぼが撮影されているようです。

最もよく見かける赤とんぼの一種であるアキアカネは、涼しい場所を求めて山地と田んぼの間を大移動する性質を持っているので、再開した田んぼに気づくことも多いのかもしれません。
また、調査の経験を踏まえて、より簡単に扱えて故障も少ない装置に改良していくこともできました。

まだまだ課題はありますが、自動撮影装置による赤とんぼ調査は科学的に重要なデータを得るのに十分に役立つことが期待できそうです。

南相馬市の田んぼに設置された自動撮影装置の写真

南相馬市の田んぼに設置された自動撮影装置

この研究は最新のドローンやIoT機器を用いているわけではありません。
CdSセルという昔ながらのシンプルな光センサー部品を、棒の先にとまるという赤とんぼの何気ない行動に結びつけたことで成り立っています。

生き物の調査では最新の高性能な装置一台より、シンプルな技術に基づく安価な装置をたくさんそろえた方が役に立つ場合が少なくありません。

生き物の行動への観察眼とシンプルな技術を組み合わせることで生き物調査のハードルが下がってデータを取りやすくなる、この研究がその一助になればうれしいですね。

※CdS(硫化カドミウム)を用いた直径5mmほどの光センサー部品の一種。あたる光が強いほど電気抵抗値が下がる性質を持つ。

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参考文献

  • Yoshioka A., Shimizu A., Oguma H., Kumada N., Fukasawa K., Jingu S., Kadoya T. (2020) Development of a camera trap for perching dragonflies: a new tool for freshwater environmental assessment. PeerJ, 8, e9681
  • 国立環境研究所.飛翔生物検出装置.特許第6558701号.2019-08-14