国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (3)
特集 OECD化学品プログラムへの貢献
第17回OECDテストガイドラインプログラムナショナルコーディネーター会合(WNT)について

生態リスク評価研究室主任研究員(当時) 菅谷 芳雄

1. はじめに

 2005年4月12日から3日間の日程でOECDのテストガイドラインプログラムのナショナルコーディネーター会合(WNT)が開催された。ここでは、討論の内容を主に生態毒性の分野を中心に概要を紹介したい。OECD加盟各国が試験データを相互に利用・承認できるように試験法ガイドラインを調和するためのテストガイドラインプログラムはOECDの化学品プログラムの重要な柱の1つであり、本会合は加盟各国の間でその運営方針等について議論するため年1回開催されている。

 なお、本会合の正規の議事録は得られていないが、年1、2回発行されるニュースレターに議事内容が紹介されている。また、本会合で承認された後に正式に採択されたガイドライン(有料)やガイダンス文書(無料)は、脚注の公開サイトで入手可能である。

2. 会議報告

(1)生態影響試験法に関係するテストガイドライン

[1] TG208(発芽・生長試験:改正)およびTG227(植物生育試験:新規)の承認
 この2つのガイドラインは陸上植物を用いた毒性試験法で、農産物(crop:32種類)と非農産物(non-crop:52種類)の種に適用する。TG208は、通常は人工土壌に添加した(土壌全体に混ぜるか、土壌表面に散布する)化学物質にさらされた種子の、14から21日後の発芽率、芽の重さ、場合によっては高さを計測して毒性値を求める方法である。
 TG227は、発芽した後の2または4枚葉の時期に、葉に化学物質を散布して21または28日後の芽の重さや高さの計測もしくは外見的な損傷の有無を観察して、毒性値を求める。
 毒性値としては複数濃度で試験し濃度-反応関係が得られた場合にはEC50とNOECを、または単一濃度での試験からNOEC値を求める。
 本会合では、試験の妥当性クライテリアの対照の発芽率70%が適当であるかどうかについて論議した。1日目の討論では合意に至らず、フィンランドを中心とした小グループが結成し修正案をまとめ、2日目に本会合としてこの修正案を承認した。

[2] TG223(鳥類急性経口毒性)、ニホンウズラまたはノーザンボブホワイトを用いた鳥類繁殖毒性試験、および鳥類忌避試験
 作業進捗が報告された。ただし内分泌攪乱に関する試験としては最も感受性の高いエンドポイントに関して専門家間でも意見が収束していないため、さらにバリディティ確認試験が必要である段階にある。ところがその試験をサポートする国はWNTにおいても見出されず、本プロジェクトは凍結されることとなった。

(2)生態影響に関するガイダンス文書

[1] 生態毒性試験データの統計解析に関するガイダンス文書(案)の承認
 本ガイダンス文書ドラフトはすでに昨年度の16回WNT会合で論議して加盟各国から多くの修正意見が提出されていた。そのため専門家会合を開催され合意が得られていた。本会合では、文書の内容が読み手に不親切であり、わかりやすくする工夫が必要との提案があったが、内容は専門家会合で合意ずみで変更すべきでないことから現案で合同会合に提出することが合意された。

[2] 淡水静水野外試験に関するガイダンス文書(案)の承認
 昨年度のWNT会合に提出されたコメントに基づいて修正された2004年7月付修正文書案に対して、さらにデンマークから修正意見が提出され、カナダからも口頭で修正意見が提出された。その取り扱いについて、第1日目に論議し、小グループで論議し最終案のとりまとめを行うこととなった。ドイツを中心とした小グループで修正案を作成されたが、さらに表現の点で未確定の部分が残っていることから、WNT後に電子メールのやりとりを通じて、最終ドラフト案を確定することで合意された。

(3)新規プロジェクトの提案についての投票結果

 加盟国および加盟団体から新規の提案があった。本会合では結論として優先度を付して、より上位に位置する化学品合同会合(Joint Meeting)に提案し、そこで承認されれば、OECDとして専門家からなるワーキンググループで提案内容を検討し、必要があれば試験法の確認のためのリングテストを行い、ワーキンググループとしてのドラフトガイドラインを作成してWNTに提出することになる。生態毒性分野では以下の2つの提案があった。

[1] 新規TG:トビムシ繁殖試験(デンマーク提案)
 トビムシは土壌動物の1種で、原始的な(翅のない)昆虫で土壌中に普通で、生態学的には有機物の分解に寄与している重要な生物群である。今回の提案は、化学物質を添加した人工土壌に実験動物化されたトビムシの1種を放ち、一定期間の増殖率を測定することで化学物質の毒性を評価するものである。すでにISO(国際標準規格)ではドラフトが作成されリングテストが2005年度中にも実施されようとしている。研究的には試験法としてその信頼性が確認されており、化学物質管理上に行政的に利用可能であると認識されている。本会合では、総合的には優先度が高いと結論付けられた。

[2] 新規TG:ミツバチの半野外コロニー試験(ドイツ提案)
 一部の加盟国(EU)では農薬の登録申請の際にミツバチへの影響試験結果を要求している。現行のミツバチ試験であるTG213(経口毒性試験)およびTG214(塗布毒性試験)がミツバチ個体への毒性影響をみるためであった。これに対して本試験法は、より野外の環境に近い試験条件を再現したもので、いくつかの項目を観察してコロニー形成能力に関して評価する。暴露は、試験対象の物質、参照物質(IGR農薬)および対照区として水の3つ区に分けて、相互に比較してデータの解析を行う。本会合の結論として総合的には優先度はH-Mとみなすこととされた。
 なお、環境運命試験のテストガイドラインに関係して、「下水処理プロセスでの生分解性シミュレーション試験」、「分解性・蓄積性の序文」がともにアメリカから提案され高い優先度とみなされた。

3. おわりに

 本稿では生態毒性に直接関連する事項に絞って紹介した。本会合ではテストガイドラインプログラム全般にかかわる「refocus問題」が議論された。OECDでは多くのガイドラインがすでに採択され、また現在も多くのワーキンググループが作られ(プロジェクトと称しその数は約80に上る)新たなガイドラインが作成されようとしている。その一方でほとんど利用されないガイドラインも存在していると事務局は認識している。今後は、新規プロジェクトの採択に当たっては、実際に化学物質の管理施策に利用される可能性の有無に関してもチェックして、徒にプロジェクトの数を増やさないようにすること、利用される可能性のないガイドラインの廃止を含めて論議する必要がある、というのがOECD事務局が提起するrefocus問題である。この件に関しては筆者の考えの及ぶところではないため、本会合の中では残念ながら論議には参加できなかった。行政側での検討はもちろんのこと、関係諸氏のご意見が伺えれば幸いである。


採択されたテストガイドラインおよびドラフトテストガイドライン(パブリックコメント用)が紹介されている。(OECDのホームページ)
http://www.oecd.org/document/22/0,2340,en_2649_34377_1916054_1_1_1_1,00.html


リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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