国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (7)
特集 OECD化学品プログラムへの貢献
化学物質の残留性・長距離移動性評価へのマルチメディアモデルの適用に関するOECD/UNEPワークショップ

曝露評価研究室研究員(当時) 今泉 圭隆

ワークショップの背景と目的

 2005年8月30、31日の二日間にわたり、チューリッヒのSwiss Federal Institute of Technology(ETH)において、化学物質の残留性・長距離移動性評価へのマルチメディアモデルの適用(Application of Multimedia Models in Assessing Chemicals for Persistence and Potential for Long Range Transport)に関するOECD/UNEPの国際会議が開催されました。参加者は総勢30名で、スイスやドイツ、カナダなど14カ国から専門家が参加しました。日本からは、経済産業省の村田麻里子氏、当センターの鈴木、今泉が参加しました。

 現在、環境中での総括残留性(Pov:overall persistence in the environment)および長距離移動性(LRTP:long range transport potential)を簡便・適切に評価するために様々な環境多媒体モデル(マルチメディアモデル)の開発が行われています。本ワークショップでは、様々な国々で利用するためにOECDが開発したマルチメディアモデルであるPov・LRTP評価ソフトウエアツール(OECDモデル)が紹介されました。講演と演習を通じてマルチメディアモデルおよびPOPs(残留性有機汚染物質)のPov・LRTP評価に関する知識を深めることを目的として、マルチメディアモデルを用いたPov・LRTP評価に関わる基礎的講義およびOECDモデルの実践演習が行われました。また、OECDモデルは、POPsに関するストックホルム条約における付属書Dに記載されたクライテリアの判断に用いることを想定して開発されており、より適したモデルへの改善点に関する議論もなされました。

ワークショップの内容

 一日目午前のセッションでは、POPsに対するハザード・リスク評価のクライテリアに関してカナダ・ドイツ・スイスの政府関係者から事例報告があり、化学物質のPov・LRTPを評価するための計算モデルの必要性に関する発表が行われました。また、OECDや専門家グループによる現在までの活動内容の紹介およびマルチメディアモデルの背景に関しての講演がなされました。複雑な実環境をいかにして単純なモデルで表現するのか、また単純化することによる問題点や限界など、多種多様なマルチメディアモデルを理解し、正しく利用するための基礎知識が得られる内容でした。

 一日目午後のセッションでは、OECDモデルが紹介され、ソフトウエアの使用方法について、単一物質の場合や化学物質データベースを用いる場合など、各種の計算演習を行いました。

 二日目午前のセッションでは、OECDモデル以外の9種類のマルチメディアモデルに関して、概要や計算条件、関連論文などについて発表がありました。また、それぞれのマルチメディアモデル間の比較研究が2例紹介されました。マルチメディアモデルはそれぞれ異なる仮定・条件で計算されるものであり、その結果の取り扱いには注意が必要です。そのような背景があるため、Pov・LRTP評価結果の相違を参考化学物質群を用いて多角的に捉えた研究発表は非常に興味深い内容でした。

 二日目午後のセッションでは、OECDモデルの科学的側面、モデルアプリケーションとソフトウエア開発、今後の活動の3グループに別れて討論を行い、最後にまとめとしての全体討論および今後の活動についての報告があり閉幕を迎えました。

結論と提案

 講演や討論を通して以下の結論・提案がまとめられました。

  • 参加者によってOECDモデルが広く適用可能で、簡便に利用できることが確認された。
  • 適切なPov・LRTP評価のためには、入力データの精度向上が課題である。
  • モデルで考慮する機構やそれに関わる係数などに関して、現在進行中の研究成果を基にしてさらなる改善を進める必要がある。具体的には、底質が関与する機構や定常モデルにおける雨などの間欠的事象、温度勾配の影響などをより的確にモデルに組み込む必要がある。
  • 未だに十分に記述できていない部分を考慮に入れつつ、3~5年間隔程度でOECDモデルの再検討や改善を行うべきである。
  • 他モデルのベンチマークとの比較やモンテカルロ法などの手法を用いた不確実性解析が必要である。

今後の予定

 OECDモデルの活用がOECD加盟国以外の国々にまで広がることを目標として、今後もワークショップを開催することが報告されました。そして、実際に開催を予定している3つのワークショップについて紹介され、その内容に関しての討論が行われました。その一つとして、来年日本でワークショップを開催する予定であり、当研究センターの鈴木を中心として準備を進めている旨を報告いたしました。また、その他にカナダ環境省(Environment Canada)とUS EPAが合同で開催するワークショップとメキシコシティーで開催されるワークショップについて紹介されました。

おわりに

 化学物質管理に関わる各国の基準や考え方が異なる現状では、不確実な要素が多いマルチメディアモデルを統一的な判断基準に用いることは容易ではありません。今回の主な参加者であるモデルの開発・評価を行う研究者や専門家が科学的・客観的判断に基づき、モデルの利点や限界を明らかにし、結論として保障できる範囲をより明確に示すための努力がより一層重要になると思います。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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