国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

HOME > 旧組織アーカイブ > リスクセンター四季報 > Vol.1 No.1 (1)

リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.1 No.1 (1)
センター長挨拶「リスクセンター四季報の創刊にあたって」

化学物質環境リスク研究センター センター長(当時)
中杉 修身

「化学物質環境リスク研究センター センター長(当時) 中杉 修身」の写真

 科学技術の進歩が産み出す化学物質は,あらゆる面で私たちの生活を支えていますが,一方では環境汚染を通じて人の健康や生態系に深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。人類が生存し続けるためには,このように2つの顔を持つ化学物質とうまく付き合っていくことが不可欠となります。底質を中心とした全国的なPCB汚染をきっかけとして次々と新たな汚染が顕在化し,そのたびに汚染の特性に合わせて対策が強化されてきました。しかし,汚染が見つかってから対応するのではどうしても後追いとなり,土壌や底質などにいつまでも人の健康や生態系を脅かす汚染が残ることになります。このため,化学物質汚染にはとくに予防的な対応が重要とされ,必ずしも十分な情報が整わない段階であっても,環境保全に支障を来すおそれのある化学物質のリスク評価を行い,その結果に基づいて対策を講じていくことが求められています。

 庁から省への移行にあたって環境省でも化学物質リスク管理施策の一層の強化を図っていますが,このようなリスク管理施策を科学的側面から支える組織として,独立行政法人化にあたって国立環境研究所に新たに設けられたのが,化学物質環境リスク研究センターです。すべて解明された後であれば,正確な評価に基づいて的確に対策を講じていくことが可能ですが,不確かな部分を残したまま対策を進める上では,どれだけ適切なリスク評価が行えるかが重要となります。リスク評価が適切に行われないと,一方で過大な安全率を見込んで社会的なコストを増大させるおそれがあり,一方では高いリスクを有する人や生物を見落とすことにつながりかねません。このようなことを防ぐために,本センターではリスク評価手法の高度化を目指した研究を進めています。

 私たちは化学物質汚染の他にも様々なリスクに取り囲まれています。化学物質リスク管理を考える上では化学物質リスクをどこまで抑制するかが重要なポイントとなります。単に死亡率を考えれば,交通事故の方が化学物質汚染よりも明らかに高いリスクを有しています。しかし,リスクの背後にはその原因となる人間活動がもたらすメリットが存在し,それと比較して考える必要があり,単に死亡率の高さだけで決められるものではありません。このような意志決定は社会的な合意の下でなされるべきと考えられます。社会的な合意形成を行う上で不可欠なのが,化学物質リスクに対する正しい理解を社会が共有することです。このため,リスク情報の分かりやすい提供を本センターのもう1つの重要な業務と考えています。化学物質データベースを公開しているのもその1つですが,リスクセンター四季報の発行はさらに分かりやすい情報提供を目指したものです。本センターを始めとして化学物質リスクに関する研究から得られた最新の情報を提供するとともに,化学物質リスク管理施策の動向についても分かりやすく解説していきたいと考えています。当面は,四季報の名が示すとおり,季刊で発行していく予定ですが,将来的には内容,発行頻度とも充実を図っていきたいと考えています。読者の皆様からご批判やご要望をいただけますよう,お願い申し上げます。

リスクセンター四季報 Vol.1 No.1 2003-09-12発行


ページ
Top