国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (1)
巻頭言 OECDの化学物質対策への関わり

国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター
総合評価研究室長(当時) 江馬 眞

「国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター総合評価研究室長 江馬 眞」の写真

 国立医薬品食品衛生研究所ではレギュラトリーサイエンスの展開を目指して業務が行われている。「レギュラトリーサイエンス」とは「我々の身の回りの物質や現象について、その成因と実態と影響とをより的確に知るための方法を編み出す科学であり、次いでその成果を使ってそれぞれの有効性と安全性を予測・評価し、行政を通じて国民の健康に資する科学である」と定義づけられている。レギュラトリーサイエンスの基礎研究に基づいて実施される医薬品、食品、化学物質等に関するレギュレーションは現在では一国のみの問題としては通用せず、国際間に矛盾のない結論が要求されており、ここでは科学的根拠が共通言語として通用する。レギュラトリーサイエンスに関するOECDやWHOでの国際会議は頻繁に開催されており、国立衛研の研究者もこれらの会議に出席し、討論に加わっている。

 OECDでは化学物質の安全性確保のための活動の一環として1992年から高生産量化学物質の初期評価作業を行っており、我が国は1993年の第1回の初期評価会議(SIAM)から2005年10月に開催された第21回SIAMまで毎回評価文書を提出してきている。評価文書は、物性、環境影響、暴露情報、ヒト健康影響の分野から構成されており、関係省庁の専門家の協力により作業が進められてきた。SIAMで合意された化学物質の評価文書は、OECDの合同会議で承認されて公式なものとなり、国連環境計画(UNEP)から印刷物またはCD-ROMとして発行されており、化学物質の安全性評価の際に利用され、国内外の様々な評価文書に頻繁に引用されている。国立衛研総合評価研究室では、本活動当初からヒト健康影響部分の文書作成を担当するとともに、全体の文書のまとめの役割を果たしてきている。

 ヒト健康保持と地球環境保全については近年益々重要度が高まっている各国共通の優先課題であり、既存化学物質に係わる安全性確保のための点検作業を国際的な枠組みで実施すること、さらには、行政機関と化学工業界とが協力して化学物質の安全対策を推進することに重要な意義がある。我が国でも最近では厚生労働省、環境省、経済産業省及び日本工業界協会が協力して本活動に参画している。私自身は、2002年10月にボストンで開催された第15回SIAM以来7回の会議に係わってきたが、各分野の専門家の協力によりまとめ役をなんとかこなしているのが現状である。最近では、各国とも工業界が中心となって文書作成が行われるようになってきており、評価文書を政府自体が作成して毎回のSIAMに提出している国は我が国以外にはない。年2回のSIAMのための厳しいスケジュール、地味で報われることの少ない業務にもかかわらず、各分野の専門家の献身的な努力により本活動が支えられている。化学物質に係わる安全性確保はより良い生活環境、より良い地球環境を確保するためには欠くことのできない課題であり、化学物質の安全性確保及び国際貢献に重要な意義を持つ本活動が少しでも理解されるよう期待したい。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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