国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

HOME > 旧組織アーカイブ > リスクセンター四季報 > Vol.2 No.1 (1)

リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.2 No.1 (1)
センター長 新任挨拶

化学物質環境リスク研究 センター長(当時)
白石 寛明

「化学物質環境リスク研究 センター長(当時) 白石 寛明」の写真

 本年4月1日付で化学物質環境リスク研究センター長を拝命いたしました。本号でご退任の挨拶を書かれていますが,前任者の中杉先生は横浜国立大学客員教授に異動され,今まで以上にお忙しいと伺っています。政策対応研究に関する幅広い見識からリスクセンターをゼロから立ち上げられた中杉先生の路線を受け継ぐということで,若干,荷が重いと感じています。
 国立環境研究所が独立行政法人化した2001年4月に化学物質環境リスク研究センターは生まれ,現在で3年3ヶ月が経過しました。循環型社会形成推進・廃棄物研究センターとともに,環境行政の新たなニーズに対応した政策の立案・実施に必要な調査・研究を行う組織として新たに設けられた当センターは,化学物質による環境リスクに関する調査・研究を曝露評価研究室,健康リスク評価研究室,生態リスク評価研究室の3研究室体制で実施しています。

 また,化学物質審査規制法における政策を支援する手法の開発や知見の整備も期待されており,化学物質の審査,生態毒性試験機関の査察,化学物質リスク管理に係る国際会議のフォローなど,環境省の化学物質関連施策を直接的に支援しています。30年の歴史を有する国立環境研究所において政策対応型研究は始まったばかりです。基礎研究重視の方針が長く続いた研究所の歴史の中では革命的な変化とも思えます。研究費の面では政策対応の受託調査研究の占める割合は50%を軽く超えており,この研究体制が有効に機能しうるかどうかは独立行政法人化した研究所の方向性にも影響するのではないかと思わずにはいられません。
 リスク研究センターは,現在の政策課題にリアルタイムに対応しているほか,将来に問題となると考えられる課題について先導的な研究も展開しています。当研究所の中期計画では,当センターの研究課題として「効率的な化学物質環境リスク管理のための高精度リスク評価手法等の開発に関する研究」が位置付けられています。化学物質による曝露,健康影響及び生態影響のそれぞれの評価を高精度化し,それらを組み合わせた環境リスク評価手法を開発するとともに,効率的な管理に不可欠となる簡易な影響試験方法によるスクリーニング手法や少ない情報に基づく曝露量推定手法,さらにリスクコミュニケーションの促進手法を開発するための研究を行うこととされています。少ない情報からの曝露評価,時間・空間的変動に対応した曝露評価モデルの構築などのように政策にかかわりの深い研究は受託調査研究と連動して進めるなど,構成員には過重な負担とならないよう工夫して進めています。
 一方で、リスク研究センターでは化学物質の環境リスク評価を実際に実施しています。リスク評価の結果は社会に対して様々なインパクトを与えます。リスク評価が不完全であったり,関係する研究者,行政,製造者や報道機関の間でのリスクコミュニケーションの欠如のため,リスクの問題が「怖れ」として報道され,結果的にリスクの大きさに見合わない過重な調査・研究が必要となった事例は多数あります。研究者個人の興味から行われる基礎研究とは大きく異なり,政策対応型研究では科学的な正当性はもとより,なぜそのリスク評価をするに至ったかに始まり,不確実性のもとでなぜその最終判断に至ったのかなど,それぞれの判断に関して社会的な正当性が要求されます。このためリスク評価の実施においては,幅広い知識・見識が必要であり,不完全な思考や偏ったデータから誤った解釈に陥らないように,研究の方法論の確認,研究基盤の整備を絶えず行う必要があると考えています。化学系,健康系,生物系の研究職員,環境政策に通じた職員,NIESフェローを中心とした技術集団からなる現体制の強化に加え,経験を積み重ねることによる知識の組織的な蓄積を継続的に行うことが必要です。多様な才能を有するセンターの構成員が有機的に結びつき,人材育成や自己能力の向上を図りつつ“「健全な科学」を楽しく探究し着実に実践する。”ことを当面の活動方針としたいと思います。

リスクセンター四季報 Vol.2 No.1 2004-07発行


ページ
Top