国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.2 No.4 (1)
巻頭言 水生生物の多様性の維持向上をめざして

埼玉県環境科学国際センター 総長(当時) 須藤 隆一

「埼玉県環境科学国際センター 総長(当時) 須藤 隆一」の写真

 最近,河川や湖沼などの公共用水域において,水質は回復したが生物が少なくなった,あるいは種多様性が低くなり,特定の種しかいなくなったというような話題がしばしば取り上げられている。水生生物の種個体群が少なくなったり,また多様性が低下する原因には,主として生息場所の破壊,外来種による攪乱,化学物質の影響などがある。生息場所の修復のためには,多自然型工法,ビオトープの創生などが取り入れられている。外来種には「外来種被害防止法」が本年6月に施行されるに先立ち,オオクチバスやブルーギルなど37種が特定外来生物に指定され,譲渡,飼育,遺棄が禁止され,固有の生物が守られるようになる。

 一方,化学物質は数万種類がわが国でも使用され,これらの化学物質は水に混入する可能性が高く,水生生物に与える影響は計り知れないものがある。欧米諸国においては水生生物保全の観点から環境基準や環境目標が定められている。わが国の環境基本法には,健康項目と生活環境項目が定められているが,生態系保護のための環境基準は規定されていない。水質環境基準の健康項目,要監視項目はいずれもヒトの健康のみを考慮しており,生物や生態系は全く考慮されていない。しかしながら生態影響の観点から環境基準の設定が急務と考え,1999年度から環境省は検討を開始した。

 

 生活環境の中には重要な水産動植物およびその餌生物の生育・生息環境の保全が含まれていることから,水質汚濁防止法においても生育・生息環境の規制は実行できる。水生生物の影響が懸念される物質として水生生物に有害な物質,水生生物が連続して暴露されやすい物質として81物質が取り上げられている。このうち8物質の水質目標値が示され,暴露量が比較的多いと推定された亜鉛が水生生物の保全の環境基準が設定された。現在亜鉛について類型あてはめと排水基準の検討が行われており,水質汚濁防止法の枠組みのなかに入れられることになる。続いて暴露の大きさからみてアンモニアや界面活性剤などの水質目標値の策定が求められている。

 このような水質目標値の算定には膨大な毒性試験データの収集,解析によってなされるし,また必要に応じて新たな毒性試験を実施する必要がある。

 この役割を中心的に担うのが化学物質環境リスク研究センターである。水生生物を保全するための新たな水質目標値やそれに続く環境基準の設定にはこの化学物質環境リスク研究センターの積極的な取り組みが不可欠である。センター関係者の一層の活躍を期待したい。

リスクセンター四季報 Vol.2 No.4 2005-03発行


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