国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (4)
特集 OECD化学品プログラムへの貢献
「甲殻類内分泌かく乱化学物質スクリーニング試験法」についての国内外における進捗状況

化学環境研究領域主任研究員(化学物質環境リスク研究センター併任)(当時)
鑪迫 典久

 2002年秋にOECDにおいて臨時の無脊椎動物試験に関する専門家会議が開かれ、アメリカ合衆国からアミ(Mysids)を用いた試験(Mysid Two-GenerationTest)の詳細なレビューペーパー(Detailed ReviewPaper)が提出され、スウェーデンからはカイアシ類(Copepod)の発生と繁殖に関る試験(CopepodDevelopment and Reproduction test)のテストガイドラインのドラフトが提出された。OECDのEDTA(内分泌かく乱に関する試験と評価法開発)における生態影響試験法の検討グループ(VMG-eco)はその下に専門家グループを設置し、テスト方法またはテストガイドラインがEDTAのフレームワークにすでに存在するものを含めて、生態学的に重要な他の無脊椎動物グループ、例えば軟体動物、環形動物、刺皮動物や昆虫についても検討していた。

 日本国内では、2002年春に環境省により無脊椎動物に対する内分泌かく乱化学物質の試験と評価に関するタスクフォースが構成された。そこでは枝角類の一種であるミジンコを試験生物とし、現行のOECDテストガイドラインTG211(Daphnia magna Reproduction Test:ミジンコ繁殖試験)を基にして発展させた試験法を国立環境研究所のグループが提案した。試験生物としてのD. magnaは、OECDテストガイドラインTG202、TG211のほか国内の化学物質審査規制法(化審法)で既に用いられているため化学物質の一般毒性データが豊富であり、内分泌かく乱を化学物質の一影響として評価する上で有利であると考えられた。さらに最新のいくつかの研究報告によって、幼若ホルモンや幼若ホルモン様作用農薬がミジンコ産仔虫の性決定に関与していることが分かってきていた。

 2003年10月に第1回無脊椎動物専門家会合がパリで行われ、初日にアミを用いた試験法の結果とカイアシ類を用いた試験法の結果についてのプレゼンテーションが行われた。いずれも内分泌化学物質の繁殖に与える作用をエンドポイントとして検出する試験法であり、試験法としては完成されたものであったが、内分泌かく乱に起因しないが繁殖毒性を持つ化学物質と内分泌かく乱化学物質との区別が付かない点が指摘されていた。2日目にはその他の無脊椎動物を用いた試験に関する紹介が行われ、その中の一つとして日本側からミジンコを用いた試験法の提案が行われた。ミジンコ科他属の数種における幼若ホルモン様物質によるオス仔虫生産誘導についての基礎データを報告し、ミジンコを用いた「甲殻類内分泌かく乱化学物質スクリーニング試験法」に“Enhanced Test Guideline 211”の仮称を用いることを提案し承認された。この試験は一般毒性と内分泌かく乱性を分離して評価できる試験系である点が高く評価された。他にも軟体動物、環形動物、刺皮動物や昆虫に関する試験法の提案も行われたが、具体的な試験法およびその結果についての報告は無かった。翌2004年5月に16回WNT会議(Meeting of the National Co-ordinators of the Test Guidelines Programme)において、各国専門家らによる投票が行われた結果、日本から提案されたEnhanced Test Guideline 211案については優先順位が中程度と評価され、OECD試験法としての開発に合意が得られた。

 2004年12月に第3回VMG-eco会議が開かれ、Enhanced Test Guideline 211案について数カ国におけるバリデーションを行うことをOECDから要求されたが、試験に用いるミジンコの系統によって幼若ホルモン様物質に対する感受性が異なることが判明していたことから、バリデーションに先立ち、日本においてOECD参加各国で使用されているミジンコ系統の感受性差を評価すること(プレバリデーション)を提案し、承認された。そのプレバリデーションへの参加をOECD各国に呼びかけたところ、ドイツ、デンマーク、フィンランド、イギリス(2箇所)、イタリア、USAからミジンコの供与を受けた(ただし、イタリアからのミジンコは輸送途中で死亡)。それらの系統についてポジティブ化学物質(フェノキシカルブ)とネガティブ化学物質(3,4-ジクロロアニリン)について、Enhanced Test Guideline 211案のテストプロトコールに従った試験を国立環境研究所内で行い、プレバリデーション結果について2005年11月に開かれる第2回無脊椎動物専門家会合において報告する予定である。その後12月に行われる第4回VMG-eco会議の承認を待ってからバリデーション試験が遂行されることになる。

 現在バリデーション試験参加国の募集を行っているところであるが、プレバリデーションの結果からNIES系統(国立環境研究所所有)と米国のミジンコの感受性が最も高いことが判明したため、NIES系統ミジンコをバリデーション試験参加国に配布し、環境研で作成したEnhanced Test Guideline 211案のテストプロトコールに従ったバリデーション試験が来年度に行われることになっている。

 今後の予定では、バリデーション試験の結果が得られたらその統計的解析を行い、それに基づいてプロトコールの修正作業などが行われることになるであろう。OECDの試験法として正式に採択されるまでにはまだまだ時間がかかりそうである。

 なお、第2回無脊椎動物専門家会合においてアミを用いた試験、カイアシ類を用いた試験についてもバリデーション参加国の募集が行われているが、日本からのそれらへの参加予定は無い。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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