国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (5)
特集 OECD化学品プログラムへの貢献
PRTRタスクフォースの活動について

環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクトサブリーダー
(化学物質環境リスク研究センター併任)(当時) 鈴木 規之

1. 概要、目的および経緯

 OECDのPRTRタスクフォースは、2000年2月にTask Force on PRTR Task Force on Release Estimation Technique(PRTRの排出推定手法に関するタスクフォース)として設置された。このタスクフォースの目的は、(i)OECDにおけるPRTR排出推定手法の総括、(ii)加盟国間での排出推定手法に関する情報共有の促進、(iii)ガイダンス文書の作成およびワークショップの開催、(iv)排出推定手法に関する既存の国際的活動の総括、を通じて、全体としてPRTRデータの質を向上させることであるとされていた。また、PRTRタスクフォースは、国連欧州経済委員会(UNECE)、化学物質の適正管理のための機関間計画(IOMC)などのPRTR 関連活動と協力するとともに、またOECDの環境曝露評価タスクフォースとも協力するとされていた。

 その後現在まで5年ほどの間に8回のタスクフォース会合が行われ、いくつかのガイダン文書や、手法やデータの共有、加盟国間の情報共有などが行われ、あるいは議論されてきた。本稿では、主に本年4月にサンフランシスコで行なわれたタスクフォース会合の報告を通じて、現在のこのグループの活動の様子を報告する。

2. 現在のタスクフォースの概要と目的

 2005年現在、タスクフォースの名称はTask Forceon Pollutant Release and Transfer Registersと排出推定以外を含むPRTR全般に関わるよう変更されている。メンバーは各国のPRTR担当行政官と一部関連する研究機関からの参加が中心である。活動内容は抜粋すると以下のように規定されている。

(1)PRTRタスクフォースは、OECDの化学品合同会合(Joint Meeting of Chemicals Committee and Working Party on Chemicals, Pesticides and Biotechnology)に定められた課題を実行する。

(2)主な活動領域は以下の通り:i)広く利用可能な排出推定手法(RETs)の改良と普及を進める、ii)加盟国間におけるPRTRデータの共有と比較、PRTRデータ利用の促進と改善、iv)OECD加盟各国、およびその他各国におけるPRTRの確立を促進するためのツールやガイダンスの検討を行なう。

 なお、活動領域(2)のii)は日本から提案され、現在も日本リードで行なわれている活動である。会議はこれまで、加盟国のいずれかがホストする形で日本を含め各国を巡回して開催されてきている。

3. 第8回会合(2005年4月サンフランシスコ)の概要

 第8回の会合は、2005年4月に米国サンフランシスコで開催された。会議において討議された議題の主なものを以下にまとめる。


Resource Centre(リソースセンター)

カナダがリードする活動で、主にPRTR の排出推定手法に関する国際機関や各国の文書、ガイダンス、PRTR に関するWeb サイト等の情報をWeb 上に集積している。サイトは既に公開されており、OECD のサイトからアクセスすることが出来る。

Sharing and Comparing of PRTR Data(PRTR データの共有と比較)

日本がリードする活動で、各国の報告するPRTR データの共有および比較を目的として検討されてきた。各国間で、報告の基礎となる対象物質、業種分類、集計方法、裾切り、非点源の有無などPRTR の仕組みがかなり異なるため、データの共有は容易でなく、これまで、業種間の対応、異なるPRTR の仕組みに関する情報の収集と表示方法などの検討を行い、最終的にデータの「共有(Sharing)」のみを目的としたWeb データベースとして準備を進めている

Scoping Studies

a) Progress Report on the Releases from Products
 北欧諸国がリードする活動で、製品からの排出推定を、Product register とも関連して検討を進めるとしている。

b) Progress Report on the Crosswalk
 英国がリードする活動で、廃棄物に関する報告には物質量ベースの仕組みと廃棄物ベースの仕組みとが加盟国間で異なる形となっており、比較が難しいなどの問題に関する検討を行なっている。

c) Progress Report on SMEs
 北欧諸国がリードする活動で、SME (Small-Medium sized Enterprizes) からの排出推定手法に関する検討を行なっている。

Evaluation Framework for PRTR Release Estimation Techniques(PRTR排出推定手法の評価フレームワーク)

フィンランド、米国、日本の共同で進めてきた活動で、PRTR 排出推定手法の精度を評価する枠組みに関する検討を行なっている。報告文書の最終段階であり、公表の準備を進めている。

Quality Assurance/Quality Control (QA/QC) of PRTR Data(PRTR データのQA/QC)

当初オランダの提案で準備が開始されたが、現在は米国とオーストラリアの共同で進められている。PRTR データの信頼性確保のための基本的な考え方をまとめようとしており、現在検討が進められている。


4. 今後の展開

 PRTRはOECD加盟国では多くの国が制度を持っているが、加盟各国間の制度の相違は技術的観点ではかなり大きい。今後、特に各国間のPRTRデータの共有と比較を可能にするよう改善を進めることが重要であり、本タスクフォースの活動も、種々の主に技術的側面から、広くはこの目標に向かって活動が進められていくものと思われる。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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