国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.4 No.1 (1)
環境リスク研究プログラムの全体像

センター長(当時) 白石 寛明

 本年度より、10年程度の長期を見据えて、確実に解決しなければならない課題として4つの重点研究プログラムがスタートしました。温暖化という地球規模環境制約への挑戦、持続可能な循環型社会の設計、科学技術社会がもたらす環境リスクの管理、そして世界の将来を左右するアジア環境資源管理への取り組みがこれに当たり、集中的に研究資源が投下されることになりました。環境リスク研究センターはこれら重点研究プログラムうち「環境リスク研究プログラム」の実施主体として組織されました。旧化学物質環境リスク研究センターから「化学物質」の冠がとれたことが象徴していますが、侵入生物など新たな環境要因も対象とし、人の健康や生態系に及ぼす有害な影響を与える環境要因が実際にどの程度存在するのか、見過ごしている環境要因やそれによる悪影響について実態に即した研究を進めることによって、人の健康や生態系に及ぼす環境リスクを包括的に評価できる手法を見いだし、環境影響の未然防止に貢献していくことを目的としています。

「重点研究プログラム「環境リスク」の全体像」を示す図

研究の中心となるプロジェクトは、次の4つの「中核研究プロジェクト」の課題として実施されます。

  • 化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
  • 感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
  • 環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
  • 生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発

 これらにプロジェクト研究に加えて、「環境政策における活用を視野に入れた基盤的な調査研究」や「知的基盤の整備」を推進します。例えば、環境リスク評価に係わる手法や情報の体系的な整備を行い、プログラムとして社会に向けて発信するため、社会統計情報、曝露評価データ等を総合的に蓄積する地理情報システムを知的基盤として整備します。この情報基盤には、化学物質動態モデル、化学物質データベース、生態系評価・管理のための流域詳細情報、侵入生物データベースなどの成果を統合し、研究の進展に応じて更新することで総合的な環境リスク評価の基盤としての機能をもたせます。膨大な数の化学物質の環境リスク評価の促進のため、生体試料中の化学物質の高感度・迅速分析法を開発し、モニタリングからの曝露量調査の新たな枠組みや生態影響評価のための新たな生態毒性試験法の開発、トランスジェニック動物、バクテリア、動物培養細胞等を活用して発がんリスクを簡便に評価するための手法開発、バイオインフォマティックスの手法を活用してゲノム情報、化学物質の毒性情報等から化学物質の有害性に基づく類型化手法の検討、生態毒性に関する構造活性相関モデル作成など、既存情報を積極的に活用した評価手法の開発を進めます。

 また、リスク管理政策に必要とされる環境リスク評価を実施する等の実践的な課題に対応するため、「化学物質環境リスク評価オフィス」を環境リスク研究センター内に組織します。このオフィスでは,化学物質の毒性に関する知見の集積、内外のリスク評価等の動向の把握、情報の体系的な整備を行い、これらを活用してリスク評価の実施、環境リスクに関する情報・知識の正確でわかりやすい提供、環境リスクに関するコミュニケーションのための検討を行い、環境リスク管理施策の円滑な運用のための検討に活用されることを目標とします。

 人の健康と生態系へ及ぼすリスクが中心的な研究課題となりますが、本研究プログラムのより長期的な課題は、社会、経済に及ぼすリスクやリスク管理についてまで研究展開をはかり、人間社会と環境との本来あるべき望ましい関係を描くことでしょう。しかし、これは非常に大きな命題であり、今期の課題を遂行していくなかで少しずつ足場を築いていかなければならないと考えています。

リスクセンター四季報 Vol.4 No.1 2006-07発行


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