国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (6)
特集 OECD化学品プログラムへの貢献
化学工業界のOECD化学品プログラム等への対応状況
―HPVプログラム、PRTRでの産業界の貢献―

(社)日本化学工業協会(当時) 菅原 尚司

1. はじめに

 産業界のOECDにおける係りは1962年より始まり、経済産業諮問委員会BIAC(Business and IndustryAdvisory Committee)が公式な窓口となり、活動の全般にわたり積極的に協力してきました。国内においては日本経済団体連合会に平成3年にOECD諮問委員会を設置し、わが国の民間経済界の意見をとりまとめ、その実現に努力しています。

 BIAC内の多数ある委員会の中で化学産業界は化学物質委員会(Chemicals Committee)及び環境委員会(Environment Committee)を中心に活動しています。前者にては化学物質のHPVプログラム、PRTR、GHS、テストガイドライン、リスク評価・管理・コミュニケーション等多岐にわたる活動を行っています。後者にては地球規模での気候変動、廃棄物管理、貿易と環境等を扱っています。

 OECDの活動は、加盟国が先進国主体ということもあり、時代の先端をゆくプログラムが多く、その成果を以って国連等国際的機関の活動に繋がる先駆的役割を担っています。その活動を実効性あるものにする為には産業界の参画が不可欠です。欧米の国際的な企業にとってOECDは地理的にも身近な存在であり、提案されたプログラムに初期の段階より積極的に参加し、加盟国が実施する段階でも協力しています。

 今回は現在話題になっている高生産量化学物質プログラム(HPV:High Production Volume Chemicals)及びPRTRを中心に化学産業界、とりわけ日本の化学産業界がどのような活動を行っているかを述べます。

2. HPVの経過

 OECDのHPVプログラムは1987年の閣僚会議によって決定され、1993年のSIAM(SIDS Initial AssessmentMeeting:各国政府専門家による初期評価会合)より実質的活動が開始されています。このプログラムの目的は日米欧3極にて年間1,000トン以上(米国は100万ポンド以上)を生産及び輸入する既存化学物質に関し、信頼性のおける有害性情報を収集し、暴露情報と併せてリスク評価を行おうというものでした。化学産業界はこのプログラムには1998年より積極的に参加しています。当時、欧米で化学産業界に対して謂われた、市場に出回っている化学製品に使用されている物質の安全性情報が十分ではないとの批判に対して積極的に対応して行くとの考えからです。更には、業界として推進するレスポンシブル・ケア、即ち、化学物質のライフサイクル全体に責任を持つ、という活動を全世界に展開しているからです。

 取り組みとしては国際化学工業協会協議会(ICCA:International Council of Chemical Associations)が中心となり傘下の各国協会を取りまとめ、実務的にはACC(米国化学工業協会)、CEFIC(欧州化学工業協会)及び日本化学工業協会が主体となって、自主的に1000物質を目標に有害性情報の収集及び評価を行い、各国政府を通じてSIAMに評価文書を提出しています。その数は現在企業がコミットしているのが742物質となり、このうちSIAMでの評価を終え、UNEP(国連環境計画)より公開文書として出版されたものは115物質になっています。日本よりは112社がスポンサーとして参加しています。

3. OECD HPVプログラムの成果

 本年4月にSIAMの20回目会合が開催されました。その経過を図1で示します。ICCAが参加したのはSIAM11からですが、現在は評価文書の大半は産業界が提供したものになっています。通常、年2回のSIAMが開催され、提出されたSIAP(SIDS Initial Assessment Profile)、SIAR(SIDS Initial Report)及びDossierの3点セットを評価し、試験データの質を評価した上で、更なる追加試験が必要かどうかの判定を行います。Further workと判断された場合はPost-SIDSとして必要な試験を実施し再度SIAMに報告することになります。

 日本の貢献は図2に示されるように米独英と並び世界の牽引役を担っています。

「図1:SIAMで審議された物質数の推移」の画像
「図2:スポンサー国当りの合意ICCA物質数(SIAM20:2005年5月)」の画像

4. HPVその他の活動

 1)日本の「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」
 本年6月より日本のHPV国内プログラムとして、日本で製造・輸入数量が年間1,000トン以上の666物質中、既に上記OECDプログラム並びにUS HPV Challenge Programにて有害性情報収集が確定しているものを除いた約160物質につき官民連携して有害性情報の収集及び発信をしようとするプログラムをスタートしました。これには民間企業がスポンサーとなり、コンソーシアムを結成する等効率良く対応し、又、カテゴリーという化学構造式の類似した物質群を一括して評価する様な方式を導入する試みを行っています。

 2)US Extended HPV Program
 米国は独自のUS HPV Challenge Programを1999年に立上げ約2,800物質を対象として、2004年までに有害性情報並びに用途、一般的暴露情報の提供を製造企業及び輸入企業に求めています。本年よりACCが主体となり、企業が自主的に約500物質の有害性情報を収集し公表するプログラムを立ち上げています。

「図3:284物質の排出量推移」の画像

5. PRTR

OECDは1996年に加盟国にPRTRの導入に取り組むように勧告しました。日本では日本化学工業協会を中心とした化学会社が1992年のOECDのパイロットプロジェクト段階よりレスポンシブル・ケアの一環として取り組んできました。

 独自に定めた284物質の他、PRTR法成立に伴い追加された物質を含め、現在480物質の排出・移動量の削減に取り組んでいます。その結果は図3に示されるように大幅な排出量削減を行いました。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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