コンピュータシミュレーションは未来を予測する手段の一つとして広く用いられています。最近では、現実の生態系の変化を予測することにも利用され始めています。これらの研究では、ある時点での生態系のスナップショットを即席で組み立てています。しかし、特に海洋島(出現してから一度も大きな陸地とつながったことがない島)のように特殊な進化の歴史を持つような生態系では、進化過程を考慮にいれなければ正しい将来予測は出来ないのではないだろうか?と我々は考えました。そこで本研究では、海洋島生態系の進化過程を再現する新しい生態系モデルを開発し(図1)、小笠原諸島の媒島(なこうどじま)を対象として生態系進化のシミュレーションを行いました。
写真 小笠原諸島媒島 2012年7月2日 撮影:吉田勝彦
図1 生態系進化モデルの模式図。生態系は海鳥1種、草1種からスタートする(図の左上)。その後、島内での種分化と外部からのまれな移入を繰り返して生態系は進化し、複雑な生態系が構築される(図の右下)。
図2 図2(a)はシミュレーションの始めから20万ステップまでの植生変化を表している。図2(b)は外来種が外来種が侵入した20万ステップから22万ステップまでの植生変化を表している。外来種ヤギは21万ステップで駆除された。(a)は1000ステップ毎、(b)は変動が激しいので高解像度(100step毎)でプロットしている。この例では216000stepで全島森林に覆われた状態になった。それ以降シミュレーションの最後(31万ステップ)まで植生比に変化は見られなかった。そのため、22万ステップ以降は省略した。
図3 ヤギ駆除後の最終的な森林面積のヒストグラム。1303回のシミュレーションのうち、最終的に全島森林の状態に回復できたのは197回(15.1%)に過ぎず、大部分(768回、58.9%)は森林面積が島の面積の50%未満にとどまった。これは媒島の現状に近い結果である。