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熱帯樹木 Shorea laxa の実生集団におけるアルビノと近交弱勢


論文情報
タイトル
Albinism and inbreeding depression in seedlings of the tropical tree, Shorea laxa.
熱帯樹木Shorea laxaの実生集団におけるアルビノと近交弱勢
著者       
Takeuchi, Y., Kikuchi, S., Diway, B.
竹内やよい、菊地賢、Bibian Diway

*下線で示した著者は国立環境研究所所属
掲載雑誌       
Journal of Forest Research
DOI: 10.1080/13416979.2020.1796897       
受理日など       
2020年7月8日 受理、2020年7月27日オンライン掲載 オンライン公開への外部リンク
概要

植物集団における近交弱勢のレベルを把握することは、保全の指標となる個体の生存率と集団の絶滅リスクの理解に不可欠です。植物種において、葉緑素が欠乏したアルビノは、近交弱勢の最も強い表現型の1つです。熱帯林でアルビノ個体に遭遇することは稀であるものの、2014年マレーシアの熱帯林に生息するフタバガキ科 Shorea laxa の母樹林冠下で、高頻度のアルビノ実生を観察しました。このアルビノ実生と通常の表現型である緑葉実生の生残を追跡した結果、アルビノ実生は発芽後19週間において通常の緑葉の実生よりも10倍高い死亡率を示しました。遺伝子解析により、ほとんどのアルビノ実生(98.3%)は自殖に由来しており、実生全体としても自殖率が高い(61.3%)ことが明らかになりました。また、自殖由来実生において、観察された葉色表現型(緑:アルビノ)の分離比は、補足遺伝子モデルと一致しており、2つの遺伝子座にある2つの顕性遺伝子の組み合わせが Shorea laxa の緑葉の表現型を決定していると考えられました。つまり、この Shorea laxa 集団では、自殖率の増大は繁殖成功度の大きな減少につながると考えられます。本種の保全策にはこれらの遺伝的な影響を考慮する必要があります。

葉緑素が欠乏したアルビノ実生 通常の緑葉実生

図1.(a)葉緑素が欠乏したアルビノ実生と(b)通常の緑葉実生


専門用語
  • 近交弱勢:遺伝的に近いもの同士の交配(近親交配)によって、潜性有害遺伝子がホモ接合化し、潜在していた有害な表現形質が現れ、適応度が下がること。
  • 補足遺伝子:2種類以上の対立遺伝子が互いに補いあい、1つの形質を現す遺伝子のこと。
  • 顕性・潜性遺伝:メンデルの遺伝の法則に基づく概念で、子に現れる形質の遺伝様式のこと。形質の現れやすい方(顕性(優性)、dominant)と現れにくい方(潜性(劣性)、recessive)がある場合、顕性の形質が表現型として表れる。