畑地では、生産性を向上させるために施肥をおこないます。作物に利用されなかった窒素やリン等の栄養塩は、河川へ流出し、湖の富栄養化の要因となります。霞ヶ浦流域も例外ではなく、49小流域において、5回の河川水質調査をおこなった結果(図1)、季節に関わらず、畑地率が高い小流域では硝酸濃度(水質悪化の指標)が高いことがわかりました(図2)。しかし、畑地率が高いにも関わらず、硝酸濃度が低い(水質が良い)小流域も見つかりました(図2)。本研究では、畑地率も高く、硝酸濃度も低い流域を数値化し、それらの数値がどのような要因と関連しているかを分析しました。
その結果、ため池(図3)などの湿地率が高い小流域では、畑地率も高いにも関わらず、硝酸濃度が低いことがわかりました。湿地は、脱窒※などを通じて窒素を除去する働きが広く知られていますが、流域スケールでもその効果が発揮されていることが示されました。本研究から、湿地の保全・再生が、農業生産と水質のトレードオフを緩和する可能性が示唆されました。湿地は、生物多様性の保全、洪水調整の観点からも重要であることから、湿地の保全・再生は多様な生態系サービスの維持にもつながることが期待されます。
※ 脱窒:微生物の活動により硝酸イオンなどの窒素化合物が還元され、窒素ガスとして大気中に放出される作用。
図1:川での採水の様子
図2:霞ヶ浦の49小流域で見られれた畑地率と硝酸濃度の関係
正の相関関係が認められる一方、バラツキも見られます。畑地率が高いにも関わらず、
硝酸濃度が低い(水質が良い)小流域があることに注目(例:オレンジの矢印で示した小流域)。
図3:霞ヶ浦流域にあるため池
脱窒などの水質浄化機能が高い。