マングローブ植物が生育する干潟域は、陸域から供給された窒素が潮汐変動によって海域へ流出するため、窒素不足に陥りやすい。窒素は植物の生育に不可欠な元素である。このような場所で旺盛な生育を見せるマングローブ植物はどのように窒素を獲得しているのだろうか?
本研究では、アジア太平洋域のマングローブ林の主要な構成樹種ヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa Griff.)について、土壌窒素固定活性(*)の空間分布パターンを根・樹木・森林スケールで計測した。ヤエヤマヒルギの孤立木周辺の土壌窒素固定活性は、樹木に近づくにつれて増加しており、この様子は樹高が高くなるほど顕著であった(図1)。また、樹木が密生している森林内では非常に高い土壌窒素固定活性が観測された(図2)。さらに、マングローブ植物の根の近辺における窒素固定バクテリアの群集構造は、干潟土壌と異なるものであることも明らかとなった。低窒素になりがちな干潟で生育するヤエヤマヒルギにとって、窒素固定は重要な窒素供給源となっているのかもしれない。
*土壌窒素固定活性は、窒素固定を担う酵素ニトロゲナーゼの活性をアセチレン還元法によって計測した。
図2:マングローブ林内と干潟の土壌窒素固定活性
(a) マングローブ林の中では土壌窒素固定活性が高く、干潟に出ると一気に低くなっていた。
(b) ヤエヤマヒルギの根が密集した林内。
(c)マングローブ林の外の干潟。