マングローブ植物の多くは、根の一部を地上に露出している。よく見ると、根の表面には小さな無数の孔(皮目)があいており、内部はスポンジ状の空隙になっていて、大気と土中を気相で繋ぐ構造をしている。いかにも通気が良さそうなので、「通気組織」と呼ばれている。
本研究では、この通気組織が、マングローブ植物の根の近辺に潜む窒素固定バクテリアへの主要な窒素供給経路として機能しているのではないかという発想の元、ヤエヤマヒルギの支柱根通気組織を介したガス輸送を15N(安定同位体窒素ガス)トレーサー実験(*)によって検証した。
15Nを、地上部に露出しているヤエヤマヒルギの呼吸根(支柱根)に取り付けたチャンバーに添加し、2時間後に土中に埋もれていた根組織を回収して分析したところ、側根部分に15N比の顕著な増加が見られた。これは、まさに、ヤエヤマヒルギの地上根(支柱根)から土中の根組織につながる通気組織内を大気ガスが移動していることを示しており、移動してきた窒素ガスが窒素固定バクテリアに固定されていることを示している。
(*)15Nトレーサー実験:自然界の存在比を超えた安定同位体比の物質(この実験の場合は15N比が高い窒素ガス)を系内に添加することで、その物質がどのように移動していくのかを追跡する実験。
図2:15Nガス添加2時間後の根組織内の15N比
土中の側根(Lateral root)の15N比が増加していることから、
地上部から移動してきた窒素ガスが窒素固定バクテリアによって固定されていることが明らかとなった。