対流圏オゾンの濃度上昇は農作物や森林などの植生の成長に悪影響を与えることが知られている。これまで、オゾンが及ぼす影響の評価はオープントップチャンバーによるオゾン暴露実験など、研究施設やフィールドでの限られた場所で行われることが多く、広域を対象として、オゾンの影響を評価することは難しかった。
本研究では、衛星データのMODIS-NPP データと地上で観測されたオゾン濃度のデータを組み合わせ、地域レベルでの植生へのオゾン影響を評価する方法を開発した。関東地域を対象にして、オゾン濃度の観測データから作成したAOT40マップを、MODIS-NPPデータに重ね合わせ、森林や農作物の5つの植生タイプごとに、NPPとAOT40の関連性を解析した。
その結果、5つの植生タイプのすべてにおいて、AOT40の増加とNPPの減少は有意な線形の統計的関連性を示すことを明らかにした。そして2013年時点のAOT40マップの下で、植生のNPP減少分の空間分布図を作成した (図) 。4~48%のNPPの減少が見られ、特に農作物のタイプは12~48%の減少を示し (図 (e)、(f))、森林の植生タイプのNPP減少 (4~39%) (図 (b)、(c)、(d)) と比較して、オゾンへの感受性が高く、また埼玉県や群馬県の農地において、NPPが大きく減少していることを示した。
図 植生タイプ別のオゾンによるNPP減少分の空間分布図
語句の説明
NPP(Net Primary Productivity,純一次生産力)とは、ある期間において植物が生産した乾燥重量のことであり、成長の程度を示す。生態系モデルなどで計算される場合は、植物が光合成によって大気から吸収した炭素の量から、植物が呼吸によって大気へ排出した炭素の量を差し引くことで示される。
AOT40(Accumulated Ozone exposure over a Threshold of 40ppb)とは、オゾン濃度の積算量指標のひとつであり、オゾンが植生に及ぼす影響を評価する際によく利用される。日中において、オゾン濃度の時間値から、閾値40 ppbを差し引いた後、正値のみを足し合わせた数値である。