オゾンは光化学オキシダントの主成分であり、アジアの発展途上国を中心に年々増加している大気汚染物質である。オゾン濃度の上昇は森林の衰退や作物の収量低下を引き起こすとされているが、米の品質に与える影響はほとんど研究されていなかった。本研究では、オゾン濃度上昇による米の品質低下のメカニズムを解明するため、日本の代表的なイネ品種コシヒカリにオゾン処理をし、米の外観品質とデンプン組成、デンプン合成酵素およびデンプン物性の変化を解析した。
本研究の結果、オゾン濃度の上昇がコシヒカリ玄米の乳白粒を増加させることが明らかとなった(Fig. 1)。この乳白粒増加の原因として、オゾンによりデンプン合成酵素の一種でアミロペクチン長鎖の伸長に関与するStarch
Synthase IIIa(SSIIIa)遺伝子の発現量が低下(働きが低下)し、これがアミロペクチンの伸長を抑制し、結果としてデンプン粒が充填不足になることが示唆された(Fig.
2, 3)。この外観品質低下機構は高温登熟によるメカニズムとは異なっているため、オゾンと高温との複合影響によりさらに米の品質が低下することが懸念される。
Fig. 1 外気およびオゾン添加区で収穫したコシヒカリの外観品質の比較
▼は白濁が深刻な米粒を示す。
Fig. 2 コシヒカリ割断面の顕微鏡写真
左:実体顕微鏡、右:走査型電子顕微鏡。オゾン処理(写真下)により小型のデンプン粒が増加し、またデンプン粒間の空隙が見られている。
Fig. 3 イネへのオゾン暴露により未熟粒(乳白粒)が発生するメカニズム
本研究の結果明らかになった機構を赤で示す。