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ため池に出現する生物とその環境

我が国における、湖沼、河川、湿地など淡水域における生物多様性損失の評価については、2010年名古屋市で開催された生物多様性条約締結国会議の成果、愛知目標の達成に向け、ここ数年の研究の進展が期待されているところです。

私たちは、2000年から2010年の間に国立環境研究所が調査した、兵庫県南部のため池に出現する生物とその環境に関するすべてのデータについて、その取得方法を整理しメタデータ集として出版しました。データは現在整備中ですが、淡水域の生物多様性の研究に、本データを活用されたい方はご連絡ください。
また、このうち水生植物と周辺環境のデータを地理情報システム(GIS)に格納し、閲覧できるようにしました。

  • メタデータ集はこちら(PDF 1.72MB
  • ため池の生物多様性を評価する(GISのページ)はこちら


なぜ、ため池に注目するのか?

我が国における、湖沼、河川、湿地など、淡水域の生物多様性損失の状況は、科学的かつ俯瞰的な見地から、まだ十分に評価されているとは言えません。しかし、ここ数十年の間に、湿地の約60%が消失したこと、ほとんどの河川がダムや堰により分断されていること、水資源の開発などにより自然湖沼のほぼ半分の湖岸線が人工護岸化したこと、湖沼の水質については水質改善が一向に進まず、いまだ50%の湖沼が環境基準値(COD)を満たしていないこと、ブラックバスやブルーギルなどの侵略的外来魚が本州、四国、九州に広く分布を拡大したことなど、淡水域の生き物がくらす環境が急速に劣化してきたことは、ほぼ、間違いがありません。そして、それは、淡水域が人間活動にとってかけがえのない生態系であることの結果としてあらわれているのだとも言えると思います。

そうした淡水域の状況の中、ため池には、まだ多くの絶滅危惧種が生育・生息していると言われています。ため池は灌漑用水を確保するために人が造った小水域で、多くは江戸時代以降に造られたものです。我が国には、北九州から瀬戸内地方、そして愛知県へとつながるベルト地帯を中心に20万個程度のため池が存在すると言われています。ため池の生物相は水田や氾濫原湿地などとも共通性が高く、そのようなところにくらしていた生き物が移り住んできたのだと考えることができます。そして、周辺環境が改変されるにつれ、逆に、豊かな生物相がため池に残るようになったと考えることができます。ため池が淡水域の「生物多様性の宝庫」「絶滅危惧種の最後の砦」と言われるのは、そのためです。しかし、これまで、ため池の生物とその環境との関係については、ほとんど調査研究は実施されてきませんでした。

一旦、破壊された自然環境を再生することは、多大な時間と労力、そして費用がかかります。そのため、残されている豊かな生物相とそれを育む周辺の自然環境を上手に保全していくことは、生物多様性の保全には最良の戦略だと思います。国立環境研究所では、そうした視点から、2000年から2007年にかけて、兵庫県南部のため池の多い地域を調査対象として、ため池の生き物とその環境についての調査研究に取り組んできました。しかし、調査結果から、ため池の豊かな生物相も、周辺の都市化、ため池の近代化に伴う護岸化、富栄養化、ブルーギルの侵入により負の影響を大きく受けていることがわかってきました。そのため、引き続き、ため池の多い地域社会を対象として、リモートセンシングやGISを活用して優先的に保全する場所を選定する手法の開発や、生物多様性に対する人々の認知の傾向と、それに影響する自然環境・社会要因を探る研究などを進めています。

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(左写真)里山に囲まれ、池に水草が多くある池には年間を通じて29-30種のトンボが観察されました。
(中央写真)市街地に囲まれていても、周囲に林が残っているため池や池の中に水草が生育している池には、14-19種のトンボを観察することができました。
(右写真)市街化され、コンクリート護岸に囲まれ、富栄養化しているため池には6種のトンボが観察されただけでした。


トンボ写真:青木典司氏撮影

データに関する問い合わせ

ご不明な点がございましたら下記までご連絡をお願いします。

国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 高村 典子
E-mail:

(担当: 高村 典子)

Last updated Jan. 16, 2017