国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.3,4 (5)
コラム 子供の化学物質に対する脆弱性とその要因

NIESアシスタントフェロー(当時) 河原 純子

 受精から青年期にかけての期間、いわゆる「小児」の期間は、有害化学物質への曝露による健康影響を受け易く、またその影響は、曝露するタイミング(発達段階)によって異なる。しかしながら現在、環境基準値の設定においては、このような問題は必ずしも考慮されていない。子供の脆弱性およびその要因を明らかにすることは、潜在的高感受群の特定や、健康影響の予防策の提言を行なう上で非常に重要な課題である。

 子どもの脆弱性には、成長や分化、機能の成熟度などの生理学的要因ばかりではなく、ある意味“能動的に”化学物質を摂取する要因がある。その要因こそが彼らの成長過程において避けて通れない「行動」である。たとえば、手を口に入れる行動、いわゆる“ハンドトゥマウス行動”は探索期にみられる行動であり、成長する上で重要な意味を持つと思われる。この行動は1-3歳の8割に見られ、塵埃や土壌、床の化学物質への曝露の機会を高める要因となる。米国において、子どもの低IQとの関連性が高いとされている鉛の曝露には、この行動が大きく寄与している。(ヒトの血中鉛濃度は、2歳で最も高くなり、2歳を過ぎると介入なしに低下するという結果が、多くの研究で報告されている)。また、独り歩きをする頃から学童期は新しい環境を開拓する時期であり、新たな化学物質への曝露機会が増える。彼らが過ごす公園や学校、道路等の環境周辺には、設備や道具、場合によっては工業施設や交通等、様々な化学物質の発生源が存在する。この発達段階における子供の体重あたりの呼吸率は成人より高いため、体重あたりの曝露量も成人を上回る可能性もある。

 このように、子どもの有害化学物質の脆弱性には、発達に伴う行動学的要因が潜んでいるが、研究者や市民がどこまで認識しているかについては疑問である。現在化学物質環境リスク研究センターでは、子どもの特異性を考慮した曝露評価を行うためのデータの提供を目的とし、日本人の子どもの日常生活における活動環境や時間、ハンドトゥマウス行動の頻度、各種環境における呼吸量や土壌接触量等、実測調査を含めた曝露要因のデータ収集を行なっている。実地調査においては、子どもを対象とするが故の方法論の検討や配慮など、成人を対象とした研究を行なう場合とは違う視点が要求される。

 子どもの環境中の化学物質曝露の特性についてこれまでに得られている知見は一部にしか過ぎないが、今後より多くの知見を得ることにより子どもの環境化学物質への曝露の機会についての理解を深めるとともに、曝露および健康影響の低減策の提案に活用できればと思う。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.3,4 2006-03発行


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