2026/04/276分で読めます
災害が起きた後に、被災地域の衛生状態が悪化したり、復旧復興が遅れたりしないよう、災害ごみを素早く適切に処理することが重要です。このためには、処理すべき災害ごみの量を早く知ることが求められます。量が分かれば、その処理にどの程度のお金や人手が必要になるか見積もることができるためです。この記事では、限られた情報をもとに、的確に災害ごみの量を推計する手法の開発について、紹介します。
災害が起きて、あなたが市町村職員として災害ごみの処理を担当することを想像してください。ある専門家が、今回の災害で「12.6万トンの災害ごみが出る」と推計してくれたとしましょう。このとき、12.6万トンという数字がどれくらい確からしいか、知りたくなりませんか?例えば、「9.7万トン〜15.4万トンくらいの範囲になりそうだ」と分かった方が、より現実的な対応ができるはずです。
こうした不確実性を含めた推計をより自然な形で行える方法が、「ベイズ統計モデリング」です。これは、災害ごみの発生に関するこれまでの経験(事前の知識)と、実際に得られたデータ(事後の知識)を組み合わせて、推計を少しずつ更新していく統計手法です。ベイズ統計の考え方は18世紀に提案された古いものですが、計算量が多いため、長く主流ではありませんでした。近年、パソコンの計算能力の向上と分析手法の発展により、さまざまな分野で実用的な方法として広く使われています。
この推計では、まず、災害ごみがどのように発生するのかを考え、それを数学的なモデルとして表現します。例えば、「災害ごみの量は負の値になるはずがない」や「災害ごみの量にはこの要因が直接関係しているはずだ」といった考えです。また、災害ごみの量とその要因がどれくらい強く関係しているかは、あらかじめ正確には分かりません。そこで、「どんなに極端な災害でも、このような値になるはずがないだろう」という常識的な範囲をあらかじめ想定しておきます。例えば、被害が少し増えただけで災害ごみが10万トンも増えることはないだろう、といった想定です。そのうえで実際の災害データを使い、災害ごみの量が各種の要因とどれくらいの関係で増えていくのかを計算していきます。すると、最初に置いた想定の中でも、データとよく合う範囲が少しずつ絞り込まれていきます。
では、災害ごみの量は何で決まるでしょうか。実は、過去の災害経験からすでに分かっていることが多くあるのです。
まず、当たり前ですが、被害が大きいほど災害ごみの量は多くなります。家の中が水浸しになったり、揺れで物が倒れたりすると、使えなくなった家財の片付けに伴って「片付けごみ」が多くの家から出ます。また、被害が特に大きい場合は、家を取り壊して建てなおすため、解体に伴う「解体ごみ」が多く出てきます。片付けだけであれば、1軒で数トンの災害ごみですが、解体を伴う場合は重たいコンクリートも出てくるため、木造家屋1棟で100トン近い量になります。
他にも、災害ごみの量に影響しそうな要因はいくつか思い当たります。まず、災害の種類によって量が違いそうです。例えば、洪水で大きな被害を受けて濡れた家はきちんと乾かして清掃すればリフォームできるかもしれませんが、地震で大きな被害を受けると、解体して建て直さなければならない家が多くなりそうです。津波被災地域では、家も事業所も植生も何もかも混ざり、災害ごみとなるため、特に量が多くなりそうです。
また、被災地域が都市部か農村部かによっても状況が変わるでしょう。例えば、一般的には都市部よりも農村部の方が家1軒のサイズが大きかったり、母屋と付属屋(倉庫など)の両方がある場合があったりと、被災家屋1軒からより多くの災害ごみが出そうです。
これ以外にも、特定の災害でのみ影響する要因も多く存在します。例えば、たまたま稲作が盛んな地域で、稲刈りシーズンに洪水が起きたとしたら、多くの稲藁が災害ごみとなります。今回は、様々な災害で活用できるモデルを作るため、こうした個別の要因は考えないことにしました。
過去の災害ごみ処理の実績について497件のデータを集め、ベイズ統計モデリングにより、より良い予測ができるモデルを検討しました。その結果、図に示すような予測ができるようになりました。黒い点が実際に発生した災害ごみの量、色付きの点がモデルによる予測です。黒い点と色付きの点がピッタリ一致すれば、完璧な予測です。また、80%の確率でこの範囲になることを示したのが、色付きの点から上下に伸びている線です。横軸は個々の災害事例、縦軸は災害ごみの量を対数スケールで示しています。
予測結果を見ると、災害ごみの量が1,000トンより多い災害では概ね良い予測になっています。災害ごみの推計量を正確に知って計画的に対応することが重要になるのは、大規模災害の時だと言えますので、実務に役立つ可能性がある推計だと言えるでしょう。一方で、1,000トンより少ない災害では予測が高めに出ているなど、まだ推計の精度を改善する余地はあります。
この研究では、限られた情報をもとに災害ごみの量を推計できる方法を検討しました。このことにより、災害ごみに関連する情報が手に入りにくい日本以外の国でも使えるモデルができたと考えています。今後は、多くの情報が必要になるものの、精度が高いモデルも検討していきます。また、災害ごみの量だけでなく、リサイクルできるものや有害物質などの割合といった、内容・質についても推計できるようなモデルを作ることも重要です。