加えて、締約国会議は、この条約の効力発生の日から6年以内に、および、その後は、締約国会議が決定する間隔で定期的に、この条約の有効性を評価することが定められています。有効性評価の在り方については、2019年11月に開催された水銀に関する第3回締約国会議(COP3)にて、専門家会合からの報告に基づき、条約の有効性評価を実施するため枠組みや組織、指標等について議論が行われ、COP4に向けて評価指標に必要な項目に関する情報交換をすることとなりましたが、有効性評価を実施する為の枠組み・指標等の国際的合意には至りませんでした。
一方、前述のCOP3では、下記の4つの政策質問(Policy question)を柱とする有効性評価のフレームワークと共に、計測のためのプロセス指標やアウトカム指標を含む指標群案が提示されました。しかし、水俣条約による環境中の水銀レベルの変化への寄与、更には、同条約に基づく措置による地球環境や人健康の保護への貢献を定量的に議論するためには、提案されている指標群だけでは不十分であり、人為的活動と水銀排出、環境動態、人健康影響を包括的に記述するモデルの開発と貢献が求められます。
これらを背景に、現在、国立環境研究所では、京都大学らと共同で、環境研究総合推進費令和2年度戦略研究開発課題『水俣条約の有効性評価に資するグローバル水銀挙動のモデル化及び介入シナリオ策定』(SⅡ-6, JPMEERF20S20600)において、水俣条約の有効性評価に資するためベースラインシナリオと介入シナリオにおける対策を評価可能な一連のモデル群の作成を目指し、研究に取り組んでいます。具体的には、今後の気候変動の影響などを考慮して水銀制御・管理技術を整理・評価すること、人為的活動下でのグローバル・シナリオモデルを構築して、介入シナリオを策定すること、さらに、全球における水銀動態モデルを用いて海産物中のメチル水銀濃度を計算し、ヒトへの曝露量及びその推移の予測に取り組んでいます。また、同課題のテーマ2『有効性評価に資するシナリオ分析モデルの開発』(SⅡ-6-2, JPMEERF20S20620)では、AIM/End use[Global]モデルを核として、地球規模での部門別・地域別の大気への水銀排出量の将来推計を可能とするグローバル・シナリオモデルの開発に取り組んでおり、水銀の排出削減に寄与する対策を取らない場合、経済成長に伴って、水銀排出量は強い増大傾向(4,200トン, 2050年)を示すという結果が得られています。国・地域別では、インド・アフリカ諸国を中心とする低所得国、そして、部門別では、金の抽出に水銀を用いるASGM、石炭や石油等の燃焼を電力・熱供給、原燃料の一部(石灰石、銅・鉛・亜鉛・金などの鉱石)に水銀が含まれるセメント製造や非鉄金属製錬などに起因する水銀の排出量の増大が示唆されました。加えて、各種のパラメータ(活動量、排出係数、技術の導入率など)を変化させることで、気候変動枠組み条約及び水俣条約の履行の為の対策等の導入を想定した将来の水銀排出削減シナリオ(対策シナリオ)の定量化に取り組んでおり、一連の解析により、将来の水銀排出量および排出源については、国・地域ごとに異なる傾向(地域偏在性)を有する事が明らかになりつつあります。今後の学術的知見の蓄積と発信にぜひとも期待していただければ幸いです。
文献
1. UN Environment, 2017, United Nations Environmental Programme, Global mercury supply, trade and demand, 2018, https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/21725/global_mercury.pdf
2. UN Environment, 2019, United Nations Environmental Programme, Global mercury assessment 2018, https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/27579/GMA2018.pdf
3. Streets D.G., Zhang Q., Wu Y. 2009, Projections of global mercury emissions in 2050, Environ. Sci. Technol., 43, 2983-2988.
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5. Pacyna E.G., Pacyna J.M., Sundseth K., Munthe J., Kindbom K., Wilson S. Steenhuisen F. Maxson P. 2010, Global emission of mercury to the atmosphere from anthropogenic sources in 2005 and projections to 2020, Atmospheric Environment, 44, 2487-2499.