海岸や河辺を訪れた際、落ちているプラスチックごみ(以下「プラごみ」という。)に気を向けられたことはあるでしょうか。どんなに綺麗に清掃されている場所でも必ず見つかる、と言えるほど、プラスチックは環境中でありふれた存在になっていると思います。プラごみは、太陽光や波の力を受け徐々に砕かれて細かい粒子となり、これをのみ込むことなどにより、生物や人の健康への悪影響が懸念されています。しかし、環境中のプラごみがどのように砕けていくのか、どれくらいの量の微小プラスチック粒子が生成されているのかについては、まだあまりわかっていません。われわれはこれらについて明らかにするため、太陽光と波を人工的に再現した試験によって、プラスチックが細かくなっていく過程の研究を進めています。
微小なプラスチック粒子のうち、直径5 mm未満のものをマイクロプラスチック、さらに小さい直径0.001 mm(1 µm)未満のものをナノプラスチックと呼びます。マイクロ・ナノプラスチックの多くは、プラスチックごみが環境中で砕けることでできると考えられています。
プラスチックは、そのままでは頑丈で、曲げたりしても簡単に壊れることはありません。しかし、長時間、太陽光にさらされると、プラスチックはだんだんもろくなり、表面にひびが入ってきて、少し力を加えるだけで割れたり砕けたりするようになります。これは太陽光に含まれる紫外線が、プラスチックの構造をつくる化学的な結合を壊すことで起こる変化であり、これを「劣化」と呼びます。さらに、劣化したプラスチックに物理的な力が加わり、砕けて微小な粒子が生成されるプロセスを「微細化」と呼び、環境中では主に海や川の水流によって起こります。とりわけ海岸は、水だけでなく砂との衝突や摩擦があるために、プラスチックの微細化が最も進みやすい場所と考えられています。
こうしたことから、海岸はマイクロ・ナノプラスチックの重要な発生源になっていると考えられます。その生成量を明らかにするため、われわれは、海岸におけるプラスチックの劣化・微細化を実験的に再現して調べることにしました。
プラスチックを劣化させる方法として、1つめに、プラスチック試料を屋外で静置し、太陽光や雨に曝露(ばくろ)することによる試験を行いました(写真1A)。この方法は、環境中での劣化を最も現実に近い形で再現できる試験とされています。ただ、劣化に時間がかかる(数ヶ月~数年)、天気や季節によって条件が変わってしまう、という短所があります。そこで、もう一つの方法として、太陽光を模した紫外線を照射する装置を用いた劣化試験を行いました(写真1B)。この方法では、劣化条件を一定にコントロールでき、また紫外線の強度と温度を高めて劣化速度を高めることで、短ければ数週間程度での試験も可能です[1]。
微細化を再現した試験のために作製したのが、写真2に示す装置です。この装置は、2つの筒とモーターから構成され、この筒の中に水、砂、そして劣化試験で劣化させたプラスチック試料を入れて回転させることで、波による水や砂の動きを再現し、これによってプラスチックがどのように砕けていくかを調べることができます。
作製した装置を用いて劣化・微細化試験を行なった結果、プラスチック試料から多量のマイクロ・ナノプラスチックが生成されることが明らかとなりました。写真3に、ポリエチレンのシート(厚さ0.2 mm)から生成された粒子の画像を示しています。写真3Aは直径数ミリメートル以上の粒子ですが、試料が割れることで生成されたため、破片状の形をしていることがわかります。一方で、プラスチック試料の表面が砂等によって削られることで、ナノプラスチックを含む小さな粒子も生成されていることが明らかとなりました(写真3B)。ナノプラスチック等の小さい粒子は、重量ではわずかな割合でしたが、数としては非常に多く、1 gのプラスチックから数百万個以上の粒子が生成されていると考えられました。
現在、この試験方法を用いて、さまざまな種類、形状のプラスチックについて劣化・微細化速度を求めているほか、海底など他の環境条件でのマイクロ・ナノプラスチックの生成についても試験方法を作成して評価を進めています。その結果を、海岸や海底にあるプラごみの量と掛け合わせることで、そこにあるプラごみからどれくらいのマイクロ・ナノプラスチックが生成されているのかを明らかにできると考えています。 また、環境中のマイクロ・ナノプラスチックの存在量の分析も進めており、その結果と劣化・微細化試験の結果を比較することで、プラスチックの環境中動態(どのように移動し、どこに蓄積するのか)と運命(最終的にどうなるのか)を調べようとしています。これらの研究によって、プラスチックを使っていく上での問題点がどこにあるのかを明らかにし、その問題点を解消、あるいは適切に管理していくことにつなげていきたいと考えています。