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コロナ禍におけるごみ量の変化

集団回収への影響と地域コミュニティとの関係性

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資源循環

2024/09/2510分で読めます

#研究紹介 #ごみ #集団回収 #地域コミュニティ

コロナ禍において、人々の活動はこれまでとは大きく変化しました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出によって自宅で就業したり、外食を控えたり、出張や旅行に行かなくなったりしました。人々の活動の変化は、ごみ量の変化に影響を及ぼします。この記事では、統計データを用いて、コロナ禍においてごみ量がどのように変化したのかをお見せし、人々のどのような活動の変化がごみ量の変化に影響を及ぼしたのかをお話しします。特に「集団回収」という、地域での資源化活動に着目し、地域コミュニティとの関係性をお伝えします。

背景と目的

自治体が収集、処理している「ごみ」についてお話しします。ごみには大きく分けて2種類あり、みなさんの家庭から排出される「生活系ごみ」と、飲食店やオフィスなどから排出される「事業系ごみ」があります。生活系ごみは、自治体(あるいは委託業者)によって定期的に収集されることが一般的ですが、ごみ処理施設にご自身で直接持ち込むことも可能です。また、地域で資源ごみを集め、民間の回収業者に引き渡す「集団回収」という仕組みもあります。

集団回収とは、町内会、自治会、子供会、学校などの地域団体が、家庭から出る空きびんや空き缶、古紙などの資源ごみを、一定の場所と日時を決めて集めた後、回収業者と直接取引して資源ごみを引き渡す、昔からある資源ごみ回収システムです1)。資源ごみの価格下落や、資源化の重要性の高まりを受けて、今では自治体が集団回収を支援するようになっています2)。自治体の集団回収への関与形態は実に多様ではありますが3)、集団回収の実施団体には資源ごみの量に応じて自治体から奨励金が支払われるのが一般的です4)。集団回収量が増加することによって、自治体による収集量は減少し、ごみ収集費用の削減につながるため、多くの自治体が集団回収を推奨しています。また、実施団体はお祭りや清掃活動などの地域活動の資金として奨励金を活用することができます。集団回収では住民同士が協力し合うことが不可欠なため、集団回収は単に資源化に貢献しているだけでなく、住民間のコミュニケーションの場を提供しており、まちづくりや防犯・防災対策など地域社会が抱えている様々な課題解決への効果も期待できると考えられています5)

2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中(以下、感染が拡大し始めた2020年度から、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行する頃の2022年度末までの期間を「コロナ禍」と呼びます)、人との接触を避けるために集団回収を休止する動きが全国各地で見られました。コロナ禍が終わり、集団回収を再開する地域がある一方で、引き続き集団回収を休止、あるいは終了した地域もあり、そのような地域では地域コミュニティのつながりが希薄化することが懸念されます。

この記事では、環境省の統計データを用いて近年のごみ量の傾向を振り返るとともに、コロナ禍におけるごみ量の変化、特に集団回収量の変化を示し、考察を加えてみたいと思います。

コロナ禍におけるごみ量の変化に関する情報収集

環境省は毎年度、「一般廃棄物処理実態調査」を実施しており、日本のすべての市区町村(1,741自治体)が一般廃棄物処理に関する情報を環境省に報告することになっています。一般廃棄物処理実態調査結果6)は環境省のホームページで誰でも閲覧することが可能で、最も新しいものとして、令和4年度(2022年度)の調査結果がホームページに掲載されています。一般廃棄物処理実態調査では実に多くの一般廃棄物処理に関する項目について調べられているのですが、この記事では図1に示すごみ量に関する項目を整理、分析しました。なお、資源ごみは、生活系ごみ由来のものと事業系ごみ由来のものがごみ処理施設に搬入された時点で混合、異物除去、圧縮ののち、梱包された状態でごみ処理施設から搬出されます。環境省が公開している資源化量は、生活系ごみ由来か事業系ごみ由来かは分かりませんが、筆者の独自調査によると、資源ごみの90%程度が生活系ごみ由来であるようです。

一般廃棄物処理実態調査結果をもとに、2012年度の全国のごみ量を基準として、2013年度から2022年度までのごみ量(実績値)の変化率(%)を算出しました。次に、2012年度から2019年度までのごみ量の推移を踏まえて、仮にコロナ禍がなかった場合の2020年度から2022年度までのごみ量を指数平滑法を用いて予測しました。指数平滑法とは、過去の時系列データを用いて将来の予測値を推計するための手法で、過去の時系列データのうち、古いデータよりも新しいデータを重視して予測する手法です。この記事では、図1中の背景が灰色になっている「生活系ごみ排出量」、「事業系ごみ排出量」、「金属類資源化量」、「ペットボトル資源化量」、「集団回収量」に関して、2020年度から2022年度までの予測値と実績値を比較したものを紹介します。


図1 整理、分析した一般廃棄物処理実態調査の項目(黒字)

さらに筆者は、コロナ禍におけるごみ処理状況に関する情報を収集するため、特に集団回収に関して自治体へのヒアリング調査を実施しました。ヒアリング調査は2024年6月から7月にかけて、コロナ禍において集団回収量の変化が比較的大きかった6つの自治体(東京都内2自治体、兵庫県内2自治体、埼玉県内1自治体、鳥取県内1自治体)を訪問して、コロナ禍における集団回収の変化やその背景・理由について情報収集しました。

コロナ禍におけるごみ量の変化と考察

それでは、結果をみてみましょう。2012年度の全国のごみ総排出量は4,523万トンで、そのうち71%を占める3,213万トンが生活系ごみ排出量、29%を占める1,310万トンが事業系ごみ排出量でした。2012年度以降、生活系ごみ排出量は毎年約1%減少してきました(図2)。指数平滑法による予測によると、2020年度以降も生活系ごみ排出量は減少するはずでしたが、2020年度の実績値は2019年度に比べて約1%増加しました。事業系ごみ排出量は2012年度以降、ほぼ横ばいでしたが、コロナ禍に突入した2020年度の事業系ごみ排出量は2019年度に比べて10%以上も減少しました(図3)。2020年度の観光地における事業系ごみ排出量の減少が顕著で、例えば沖縄県那覇市では2019年度に比べて26.3%の減少、京都府京都市では20.9%の減少でした。


図2 生活系ごみ排出量の変化率の実績値とコロナ禍がなかった場合の予測値 (2012年度比)


図3 事業系ごみ排出量の変化率の実績値とコロナ禍がなかった場合の予測値 (2012年度比)

コロナ禍における生活系ごみ排出量の増加と事業系ごみ排出量の減少は緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置の発出に大きく影響されたと思われます。外出自粛への協力が要請され、商業施設での買い物、娯楽施設への訪問、旅行、外食などの機会がほぼなくなり、多くの人々が自宅で「巣ごもり」しました。外出先での飲食の機会が減少することによって中食(惣菜や弁当を小売店で購入して自宅で食べること)や内食(自宅で調理して食べること)といった自宅での消費活動が活発になり、調理くずや食べ残しといった生ごみの排出量増加を招いたと考えられます。そして、自宅での消費活動の増大は、容器包装ごみの排出量の増加も伴いました(図4、図5)。なお、図4の金属類は主に空き缶のことです。金属類資源化量は2021年度以降、減少しましたが、ペットボトル資源化量は増え続けていて、清涼飲料の消費が引き続き拡大傾向であることがうかがえます。

図4 金属類資源化量の変化率の実績値とコロナ禍がなかった場合の予測値(2012年度比)


図5 ペットボトル資源化量の変化率の実績値とコロナ禍がなかった場合の予測値(2012年度比)

このように、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に起因する消費活動の変化が生活系ごみ排出量に影響を及ぼしたと言えます。一方、緊急事態宣言下では大都市に立地する多くの企業において従業員の自宅就業が推奨され、また商業施設が休業したことにより、大都市における昼間の事業活動が減衰し、事業系ごみ排出量が大幅に減少することとなりました。観光地では、観光客の激減により、観光産業の低迷が事業系ごみ排出量の減少に大きく影響していたと思われます。

図6に集団回収量の変化率の予測値と実績値を示します。2012年度以降、集団回収量は急速に減少してきました。これは、人口減少・高齢化の影響で子供会を中心とした地域コミュニティが弱体化してきたことが要因として挙げられます7)。図2に示した生活系ごみ排出量の減少傾向と比べても、集団回収量の減少率は顕著で、2019年度は2012年度に比べて27.4%も減少しました。そして、コロナ禍の2020年度には集団回収量はさらに減少し、2019年度に比べて14.4%も減少しました。図6で示す通り、予測値と比べても実績値の減少の度合いが大きかったことが分かります。


図6 集団回収量の変化率の実績値とコロナ禍がなかった場合の予測値 (2012年度比)

自治体へのヒアリング調査を実施して分かったのですが、コロナ禍の影響で、集団回収の頻度を少なくしたり、集団回収を休止した例が見られたほか、集団回収の説明会を中止した例もありました。コロナ禍で活動を休止していた実施団体がそのまま集団回収をやめたという事例も聞かれました。コロナ禍での集団回収量の減少や実施団体数の減少の要因としては、町内会や自治会の役員が高齢化しつつあり8)、もともとコミュニティ活動の衰退が危惧されていたところにコロナ禍がきっかけとなって集団回収をやめてしまった、と複数の自治体が回答しました。一方、集団回収量が減少すると回収業者も採算が合わないため、回収が打ち切られることもあるそうです9)。回収を打ち切られた実施団体は新しい回収業者を見つけられず、モチベーションも下がり活動停止に陥ります。「人口減少・高齢化」、「地域コミュニティの衰退」、「集団回収の低迷」は相互に関係しているようです。

まとめ

この記事では、全国のごみ量の推移を2012年度からみてみましたが、ごみの種類によってコロナ禍における量が増加したり、減少したりしたことを示しました。コロナ禍においては巣ごもり需要で生活系ごみ排出量が増加しましたが、外出自粛により事業系ごみ排出量が減少しました。そして、コロナ禍の影響が最も大きかったのが、集団回収であったと言えます。人口減少・高齢化の影響で子供会を中心とした地域コミュニティが弱体化し、集団回収量が減ることが、すでにコロナ禍以前より懸念されていましたが、コロナ禍における集団回収量の急激な減少は、地域コミュニティの弱体化が加速しつつあることを表しているようです。

コロナ禍においても集団回収量が変わらなかった地域や、一旦減少してまた元に戻った地域もあります。今後も人口減少・高齢化が進行し、このままでは集団回収は一層衰退することが予想されますが、持続的な地域コミュニティの形成に向けて、集団回収は重要な活動のひとつであり、われわれはその重要性を再認識する必要があります。

参考文献
1) 環境省 (2014) 日本の廃棄物処理の歴史と現状.
https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/ja/history.pdf
2) 波江彰彦 (2009) 資源ごみの集団回収にみられる全国的特徴. 2009年 人文地理学会大会研究発表要旨. 
https://doi.org/10.11518/hgeog.2009.0.24.0
3) 山本耕平, 小田内陽太, 酒巻弘三, 細田佳嗣 (2007) 「協働型集団回収」に関する考察. 第18回廃棄物学会研究発表会講演論文集.
https://doi.org/10.14912/jswmepac.18.0.87.0
4) 南明紀子, 山本耕平, 酒巻弘三, 細田佳嗣 (2009) 持続可能な「協働型集団回収」についての考察. 第20回廃棄物資源循環学会研究発表会講演集.
https://doi.org/10.14912/jsmcwm.20.0.26.0
5) 湯沢 昭 (2013) 家庭ごみの減量対策としての有価物集団回収の実態と課題. 日本建築学会計画系論文集 78, 2329-2337.
https://doi.org/10.3130/aija.78.2329
6) 環境省. 一般廃棄物処理実態調査結果.
https://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/ippan/index.html
7) 三輪拓也, 藤原健史 (2008) 地域コミュニティの立地要因を考慮したごみ集団回収量のモデリング. 第19回廃棄物学会研究発表会講演論文集.
https://doi.org/10.14912/jswmepac.19.0.37.0

8) スチール缶リサイクル協会 (2023) スチール缶リサイクル年次レポート 2023
9) 北坂 容子, 佐久間 信一, 中田良平 (2023) 新型コロナウイルス感染症拡大によるスチール缶資源化への影響. 第34回廃棄物資源循環学会研究発表会講演集.
https://doi.org/10.14912/jsmcwm.34.0_179

論文情報
未発表

   
資源循環領域 資源循環社会システム研究室 / 主任研究員
※執筆当時

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