溶存有機物の分子サイズの測定

掲載日:2020.4.1

溶存有機物とは

 溶存有機物(DOM)とは、孔径0.2~1µmのろ紙を通過する有機物の総称です。植物プランクトンの光合成によって生産されるDOMは、湖沼における有機物循環の起点である。DOMはバクテリアに取り込まれ、原生動物、動物プランクトンを経て、魚類などのより高次の生物へ至る食物連鎖の基盤を形成しています。その一方で、人間にとっては水道水源の異臭味の原因となるなど、水質悪化リスクでもあります。

なぜ溶存有機物の分子サイズを測定するのか

 DOMはその生分解性に着目すると、大きく2つのグループに分けられます。1つはアミノ酸・糖・たんぱく質などから構成され、数日で生分解してしまう易分解性DOM。2つ目は、数ヶ月から数百年以上も生分解せず残存する難分解性DOMです。この両者の存在比は湖沼における炭素の循環に大きな影響をもつことから研究がなされてきました。その結果、DOMのサイズと生分解性には密接な関連があり、大きいサイズのDOMほど易分解性DOMで、小さいサイズのDOMほど難分解性であることが分かってきました。そのため、DOMのサイズ分布を詳細に分析することがDOMの生分解性を明らかにするカギとなります。

国立環境研究所によるSECの開発

 DOMのサイズを測定する効果的な方法は、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)の利用です。細かい孔が多数あいた充填剤の中をサンプル水が通過するとき、小さい分子は細孔を通るので遅くなりますが、大きい分子は素通りするので早く通過します。そのため、サンプル水が充填剤を満たしたカラムを通り検出器へ到達するまでの時間で、DOM分子サイズがわかります。しかし、SECで使用される既存の検出器(蛍光・紫外吸光(UV)検出器)では検出できないDOMが湖水中にあり、DOMのサイズを定量的に分析できない問題点がありました。そこで国立環境研究所ではSECシステムに全有機炭素計(TOC)を組み込み、定量的なDOMの分子サイズ測定装置を開発しました。

サイズ排除クロマトグラフ(SEC)の原理
サイズ排除クロマトグラフ(SEC)の原理

全有機炭素検出サイズ排除クロマトグラフ(TOC-SEC)の特徴

 琵琶湖分室の全有機炭素検出サイズ排除クロマトグラフ(TOC-SEC)は、SECシステムは、UV検出器、蛍光検出器に加え世界最高レベルのTOC検出器を有しており、従来の手法では検出できなかった高分子のDOMも高感度で検出可能です。また、国立環境研究所では塩水のDOMを測るための技術開発にも成功しています。下のグラフは東京湾でのDOMの分析例です。TOC計により、DOMの高分子の部分(グラフ左側の赤線のピーク)が検出できているのがわかります。

全有機炭素検出サイズ排除クロマトグラフ(HPLC-TOC-SEC)外観
全有機炭素検出サイズ排除クロマトグラフ(HPLC-TOC-SEC)外観
全有機炭素検出サイズ排除クロマトグラフ(HPLC-TOC-SEC)外観
東京湾での分析例(Shimotori et al. 2016)

琵琶湖での成果

 琵琶湖北湖の沖合で、表層水と水深10mおよび60mで採水し、HPLC-TOC-SECを用いてDOM濃度を測定しました。その結果、表層付近では分子量約12万(Da)の高分子有機物の割合が高く、底層では分子量2000Da程度の低分子有機物の割合が高くなっていました。この事から、琵琶湖の表層には植物プランクトンの光合成で生産された易分解性のDOMが多く、底層ではバクテリアにより分解の進んだ難分解性のDOMが存在していることが明らかとなりました。

琵琶湖のサイズ別溶存有機炭素濃度
琵琶湖のサイズ別溶存有機炭素濃度

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