研究内容
S-8-2(2) 亜熱帯化先進地九州における
水・土砂災害適応策の研究
本研究では、「災害免疫力」という今までにない新しい概念を提案し、これを評価軸とした温暖化過程および温暖化後の災害外力に適応しうる高度な影響・適応策評価モデルを開発するとともに、日本で最も早く亜熱帯化が進む九州に適用する。その際、九州内の自治体(福岡市、佐賀県、沖縄県)と連携することで、自治体レベルにおける温暖化の影響評価・適応策の検討を行う。
a) 災害免疫力の素因の抽出ならびにその体系化
各地域における気象データならびに防災基盤、社会基盤データ等を収集・解析し、「災害免疫力」の素因の抽出を試みる。また、その定量的評価手法の検討を行う。対象自治体との協調により温暖化適応策の策定に向けた問題点の明確化を行う。得られた成果を統合して、温暖化に関する高度な影響・適応策評価モデルを構築するとともに、九州内の自治体における温暖化の影響評価・適応策を検討する。
b) ゲリラ豪雨の予測手法の開発
ゲリラ豪雨に影響を与えると考えられる都市熱環境の変化を評価するため、福岡都市圏において長期多点同時観測を行うとともに、過去の観測データとの比較により都市の発展による熱環境の変化を評価する。
気象モデルWRFおよび雲解像モデルCloud Resolving Storm Simulator (CReSS)を用いて、これまでに大きな災害を引き起こしたゲリラ豪雨の事例解析を行い、ゲリラ豪雨の発生機構およびその特性を明らかにする。
都市規模などを仮想的に変化させた感度解析を行い、都市の熱環境の変化がゲリラ豪雨の発生頻度などへ与える影響を推定する。また、ゲリラ豪雨の高頻度化などに伴う都市の降雨災害の予測解析を行う。
c) 台風並びに高潮の高精度推定モデルの開発
有明海湾奥の佐賀県沿岸を対象に、自治体と協力して災害危険度の高い沿岸域を把握するとともに、台風期の波浪・潮位観測を実施する。加えて、波浪・高潮の計算精度に大きく影響する海面抵抗係数について、波浪の観測結果から再検討する。これらの知見をもとに、高精度な波浪・高潮推定モデルを構築し、有明海湾奥の佐賀県沿岸における災害脆弱性の評価と自治体レベルでの適応策について検討する。
d) 斜面安定化ならびにその評価法の開発
地球温暖化による降雨特性の変化に伴う斜面崩壊や沖縄県の赤土等の流出の実態や被害状況の調査・分析を行い、自治体と協働しながら当該地域の脆弱性を評価する。この知見をもとに、降雨による斜面崩壊や赤土流出のメカニズム解明とその災害予測モデルを構築するとともに、その検証実験を自治体と協働して実施する。これらの知見をもとに、温暖化による斜面崩壊・浸食の影響評価に関するモデルを構築するとともに、自治体に応じた対応策をソフト・ハードの両面から検討する。
e) 河川災害適応策のための要素技術の開発
小規模分散型を含め、カスケード型洪水貯留施設群の治水機能に関する定量的な評価を行う。天然土砂ダムの崩壊などにより下流を襲う段波洪水に対するカスケード型洪水貯留施設群のクッション効果を定量的に評価する。これらの知見をもとに、自治体等と協力して温暖化を考慮した九州における天然土砂ダム崩壊への対応策を検討する。
f) 都市災害適応策のための要素技術の開発
自治体と協力して福岡都市圏において水害に脆弱な地域を把握する。代表的な形状の自動車の模型を用いた実験により、如何に車が流水に対して弱いかを立証する。また、車が流される時の流速と水深の関係を定量評価する。加えて水害脆弱地域を予測するための氾濫解析モデルを構築する。流水に対する自動車の脆弱性を実車を用いて実証し、市民の危険度認識能力の向上を図る。また、自治体と協力して都市圏の災害免疫力向上のための適応策を検討する。
グループメンバー(*:課題リーダー)
災害免疫力の素因の抽出ならびにその体系化・ゲリラ豪雨の予測手法の開発・台風並びに高潮の高精度推定モデルの開発・斜面安定化ならびにその評価法の開発・河川災害適応策のための要素技術の開発・都市災害適応策のための要素技術の開発 |
|
氏名 |
所属機関・部署 |
*小松 利光 |
九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
松永 信博 | 九州大学 大学院総合理工学研究院 流体環境理工学部門 |
橋本 典明 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
安福 規之 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
押川 英夫 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
橋本 彰博 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
大嶺 聖 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
陳 光斉 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
田井 明 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
久田 由紀子 | 九州大学 大学院総合理工学研究院 流体環境理工学部門 |
荒木 功平 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
木梨 行宏 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
山城 賢 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
小林 泰三 | 九州大学 大学院工学研究院 環境都市部門 |
- 【テーマ1】
我が国全体への温暖化影響の信頼性の高い定量的評価に関する研究 - S-8-1(1) 統合評価モデルによる温暖化影響評価・適応政策に関する研究
- S-8-1(2) 温暖化ダウンスケーラの開発とその実用化
- S-8-1(3) 気候変動による水資源への影響評価と適応策に関する研究
- S-8-1(4) 沿岸・防災リスクの推定と全国リスクマップ開発
- S-8-1(5) 地球温暖化が日本を含む東アジアの自然植生に及ぼす影響の定量的評価
- S-8-1(6) 農業・食料生産における温暖化影響と適応策の広域評価
- S-8-1(7) 温暖化の健康影響-評価法の精緻化と対応策の構築-
- S-8-1(8) 媒介生物を介した感染症に及ぼす温暖化影響評価と適応政策に関する研究
- S-8-1(9) 温暖化適応政策による地域別・部門別の受益と負担の構造に関する研究
- 【テーマ2】
自治体レベルでの影響評価と総合的適応政策に関する研究 - S-8-2(1) 地域社会における温暖化影響の総合的評価と適応政策に関する研究
- S-8-2(2) 亜熱帯化先進地九州における水・土砂災害適応策の研究
- 【テーマ3】
アジア太平洋地域における脆弱性及び適応効果指標に関する研究 - S-8-3 アジア太平洋地域における脆弱性及び適応効果指標に関する研究