プラスチックの製造から廃棄までのライフサイクルにおけるカーボンニュートラルを目指す新たなごみ処理の仕組み「LCCN:Life Cycle Carbon Neutral」の事業化に向けた準備が進んでいる。国立環境研究所(国環研)の藤井実室長は、賛同者を募って一般社団法人「LCCN推進研究会」を立ち上げ、国内外を飛び回りながら企業や自治体に働きかけてきた。現在、国内外の複数地域で検討の具体化が進んでおり、事業化に向けた機運がいよいよ高まっている。
2026年4月7日、島根県松江市の江島工業団地内で、ごみ焼却施設から出る燃焼ガスをボイラーで熱交換し、製造された蒸気を合板製造工場に供給する取り組みが始まった。1時間当たり2~3トンの蒸気が、新たに建設された長さ約900メートルの配管を通して運ばれ、合板の製造に利用される。廃棄物処理などを行う三光株式会社(鳥取県境港市)が2022年に合板製造販売の松江エヌエル工業株式会社(東京都)に提案し、配管の敷設工事などを行った。事業化には一般社団法人資源循環ネットワークも協力。総事業費は6億6千万円で、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業に採用され、国が半額を補助した。
焼却施設の蒸気を近隣工場で利用する事業に三輪昌輝・三光社長が関心を持ったのは、川崎火力発電所(川崎市)が、近隣の千鳥・夜光地区にある複数の工場に蒸気を供給していると知ったのがきっかけだった。
「ごみ焼却時に出る熱を合板加工に利用できないか」。三光が松江エヌエル工業に話を持ちかけたのは2022年秋ごろ。合板は、丸太を大根のかつら剥きのように剥いて薄い板にした上で乾燥させて作るのだが、乾燥させる過程でかなりの量の蒸気が必要になる。松江エヌエル工業では生産量が増え、乾燥のために新しいボイラーを導入しようか検討していた。三光の江島工場では、リサイクルしにくい混合廃棄物など1日に約70トンのごみを焼却しており、松江エヌエル工業が新たに必要とする蒸気を賄うことが可能だった。
三光は蒸気の販売収益を得られ、松江エヌエル工業は化石燃料を熱源とするボイラーの購入を避けられる。CO2排出量の削減効果だけでなく、両社にとっての経済的なメリットも大きかった。話は即座にまとまり、両社間で12年間の蒸気の有償需給に関する契約が結ばれた。
三光の三輪社長は、今回の取り組みによって社員の意識が変わったと感じている。「蒸気を多く作ることは、廃棄物を安定してたくさん処理することと操業的には同じベクトルだ。供給義務が発生することで、処理量が伸びていくことも期待している」と話す。三光はこれまで蒸気を発電などに利用してきたが、全体の4割程度しか利用できていなかった。今回の取り組みにより、蒸気の利用率は8割を超えた。
ごみ焼却時の蒸気の産業利用は、これまでも行われてはいたが、国内で注目を集めるようになったのは最近のことだ。2025年には、尾張東部衛生組合(愛知県尾張旭市)のごみ焼却施設から出る蒸気を再生紙の製造工場で利用する取り組みが、新エネルギーの導入・普及を進めた企業や団体に贈られる新エネ大賞の3位にあたる「新エネルギー財団会長賞」にも選ばれた。
この発想をさらに発展させ、ごみ焼却時に出る蒸気だけでなくCO2の回収・利用まで組み込んだ仕組みがLCCN注1だ。
LCCNは、Life Cycle Carbon Neutralの略称で、プラスチック等の化学素材の製造から廃棄までのライフサイクルにおけるカーボンニュートラルを目指す。コンビナート内に大規模なごみ焼却炉(LCCNプラント)を建設し、リサイクルできないプラスチックと他の可燃ごみを燃やす。焼却時に出る蒸気はエネルギーとして化学工場などで使用し、CO2は回収して水素と反応させ、メタノールに変換してプラスチックの原料として利用する。LCCNプラントが、化学工場を動かすための蒸気と、プラスチック等の原料となる炭素を供給することで、カーボンニュートラルを実現できることになる。LCCNを構成する要素技術は既存のものだが、リサイクル困難な廃棄物に対して、環境、エネルギー、経済性のいずれの観点でも最も効率的な仕組みを提供する点に新規性がある。
注1)LCCNについて詳しくは、藤井室長へのインタビュー記事「ゴミ焼却の熱とCO2を工場で活用する『LCCN』の社会実装に向けて」を参照。
リデュースやリサイクルの徹底では、プラスチックのカーボンニュートラルは実現できないのだろうか。
日本生活協同組合連合会(日本生協連)は、容器包装に使用しているプラスチックを2030年度に2016年度比で25%削減するなどの目標を掲げ、製品に使用するプラスチックを減らす「リデュース」と、「届けて、回収する」という生協ならではの宅配システムを生かした「リサイクル」を組み合わせ、プラスチックごみ削減に取り組む。
現在、組合員から回収したペットボトルをリサイクルした原料を一部に使用した包装のコープ商品は約300品にのぼる。箱の中のトレーを省いたり、袋サイズを縮小したりするなどしてプラスチック使用量の削減にも取り組み、環境負荷が小さいとされるエコマーク認定商品数は1000品を超えた。2022年からは植物由来のペットボトルの使用も開始。ドレッシングボトルを植物由来30%のプラスチックに変更するなどし、1本につき6.9gの石油由来プラスチックの削減に成功している。
だが、「リデュースやリサイクルには限界もある」と日本生協連サステナビリティ戦略室の設楽良昌担当部長は打ち明ける。「リサイクルできるものはできる限り循環させるべきだが、一方ですべてのプラスチックを循環利用することは衛生面も含めて現実的ではなく、可燃ごみと一緒に焼却処理することがどうしても必要になる。焼却時に発生する熱とCO2を最大限効率よく活用する仕組みとして、LCCNの可能性に期待している」(設楽担当部長)
LCCNの社会実装への機運は高まっている。藤井室長は2021年からこれまで、国内外で延べ360回以上、企業や自治体などを訪れてコンビナート内もしくは近隣に大規模な焼却炉を建てることを提案し、詳細を説明してきた。学会や勉強会などでの講演も60回を超え、2024年12月には、賛同者らと共に一般社団法人LCCN推進研究会も立ち上げた。
研究会の会員は24団体(2026年9月現在)となり、社会実装に向けて密な情報交換を進める。活動は実を結びつつあり、現在、国内3カ所で、ごみ焼却炉(LCCN Readyプラント注2)の建設場所を想定した具体的な検討が進められる。
注2)LCCN Readyプラントは、コンビナート等に集めた廃棄物を焼却し、近隣工場に蒸気供給を行っている状態のプラント。LCCN構想における「CO2を回収して利用する」直前までのサイクルが完成しているプラントで、将来的にはCO2の回収・利用を拡大してカーボンニュートラルを達成できる。
事業化の最初のハードルは、焼却炉の建設用地をコンビナート内で確保することだ。三光から松江エヌエル工業への蒸気供給事業について藤井室長は、「焼却炉の蒸気活用事例が積み重なったという意味で高く評価したい」とする一方で、「蒸気を必要とする工場の近くにたまたま焼却施設があったので数億円の投資で蒸気供給を実現できたが、そうした立地にある焼却施設は全体の1割にも満たない」と指摘する。ごみの焼却熱を最大限利用するためには、蒸気を必要とする工場のそばを選んで、大規模な焼却施設を建設するところから始めなくてはならない。
土地を確保できたとして、ごみ処理の広域化への合意形成も簡単ではない。コンビナートで必要な蒸気量は膨大なので、1日に5000トン以上のごみを焼却するのが理想だが、これは複数の都道府県が協力して、600~700万人分のごみを一カ所で燃やすことでようやく可能になる量だ。藤井室長によると、まずは500トン(60万人分)程度のごみを処理する300~400億円程度の焼却炉の建設を目指しているという。
東京23区の一般廃棄物処理を担う東京二十三区清掃一部事務組合は、都をまたぐようなごみ処理の広域化には慎重だ。同組合総務部企画室の工藤雅之課長は、「ごみ処理施設は歓迎される施設とは言えない。ごみ処理は基本的には自治事務として各市区町村が自らの責任と裁量で行うことになっていて、広域での処理はできないわけではないが、さまざまなハードルがある。施設を受け入れる側の住民もどのような影響があるかを注視していると思うので、そこも含めて自治体間で協議したり、丁寧な説明をしたりしなくてはならない」と話す。
一方で、2050年カーボンニュートラル実現のためのプレッシャーは重くのしかかっており、LCCNの事業化への期待は大きい。
東京23区では2008年から、埋め立て処分量の削減と熱エネルギー回収のため、リサイクルできないプラスチックを埋め立てるのではなく、焼却処理をするようになった。ごみ焼却に伴い年間約300万トンのCO2が排出されているが、約半分はプラスチック等の化石資源起因であり、この半分をすべて回収しなければカーボンニュートラルは実現できず、最終的には残りの半分も回収して、排出量をむしろマイナスとすることが求められている。
だが、23区内には土地が残されていないため、焼却炉の建設用地とほぼ同じ広さの土地が必要とされる回収装置を十分な規模で建設するのは不可能に近い。また、仮にCO2の回収ができるようになったとしても、CO2の活用先は決まっていない。LCCNが事業化されれば、こうした問題の解決策になりうる。
「東京23区内でカーボンニュートラルを達成するのは難しく、何かしら外との連携は必要だろう」と藤井室長は指摘する。ごみ焼却施設の老朽化や自治体の資金不足が追い風となり、廃棄物の広域処理への理解は進みつつあるという。環境省も2024年、都道府県に向けて、市町村と連携してごみ処理広域化の計画づくりを進めるように呼びかける通知を出している。
国環研は、2026年4月に始まった第6期中長期計画で、LCCNに関する研究を「地域協働による社会転換の創発と展開戦略の研究プロジェクト」の中に位置付けた。立命館大学や東京大学などとも連携し、化学産業と廃棄物セクターのカーボンニュートラル達成について、経済的にも合理的な形で推進できるように、研究を通じて後押ししていく。
藤井室長は「プラスチックのカーボンニュートラルを実現する上で、LCCNを併用することが最も効率的な選択肢になることを研究面で明らかにしていきたい。行政や企業など、サプライチェーンの中で異なる立ち位置の方々の期待や協力を得ながら、皆でLCCNの事業化を進めていく必要がある。現在の仕組みから相当大がかりな変更をすることになるので、協力の輪を広げていくことが重要だ」と話す。LCCNは、構想から社会実装へ向けた重要な局面を迎えている。