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正解を示すのではなく、地域の選択を『科学』で支える

なぜ、国環研が地域協働研究に本気になったのか?

環境と社会

2026/02/179分で読めます

#研究紹介 #地域協働 #復興まちづくり

研究というと、専門家が分析し、最適解を示すもの——
そんなイメージを持っている方も多いかもしれません。
国環研が取り組む「地域協働」研究は、
あらかじめ用意された正解を地域に当てはめることを目的としていません。
地域に暮らす人たちとともに考え、選択を支え、次世代へ引き継いでいける道筋を描くこと。
そのプロセスそのものを、理論と実践を通じて「“デザイン”する」研究——
気候変動をはじめとする社会課題が複雑化し、一つの答えを示すだけでは解決につながらない時代に、「地域協働」研究の重要性はかつてないほど高まっています。
福島地域協働研究拠点の大西悟主任研究員は、工学の知見を羅針盤に、「地域の力」と「先端技術」を融合させた、持続可能なまちづくりにつなげる研究に取り組んでいます。
地域とともに、未来へと続いていくまちづくりを“デザイン”する研究とは?
その内容と志をご紹介します。

大西悟の写真
インタビューにこたえる大西主任研究員

研究成果を社会実装に落とし込む

「気候変動」というグローバルな問題の解決に向けて、日本でも温室効果ガスの実質排出量ゼロを目指すカーボンニュートラルへの取り組みが始まりました。まず、国際的に約束した目標値を達成するため、シミュレーション(試算)をもとに国の目標となる大きなビジョンが掲げられ、自治体へと振り分けられた目標に基づき、各地域で計画が立案され、実施されつつあります。しかし、例えば化石燃料の発電を再生可能エネルギーに変更する、人の移動や暮らしの在り方を変えるなど、目標の達成には、具体的な土地とそれを支えるインフラを変えていかないと実現できません。そのためには、今ある状態が別の状態に転換する、いわゆるトランジションの道筋を描いて進めていくことがとても重要です。
これは見方を変えると、実際に人が生活している建物や駅といった日常の場所を変えていくことを意味します。想定した道筋がいくらシミュレーションや数字上では問題がなかったとしても、その地域のことをよくわかっていないと不具合や困ったことが生じる場合があります。せっかく取り組むのであれば、地域のためになることをやった方が良いのですが、そこに現地(ボトム)から組み上げていくようなロジックやデザインがないと取り組みがかえって暮らしぶりがなくなることになり得ます。マクロな視点に立てば正解であったとしても、そこに住んでいる人たちにとって良い形になるかどうかの確証が持てないまま、取り組みが進められることは本意ではないですよね。
その部分をなんとか担保したいという思いがあり、私の研究では社会実装に向けたプロセスを“デザイン”するといったことに取り組んでいます。研究成果と社会実装が整合するのか、その地域にとって本当に役に立つのか、お金を出してまでやるべき価値があるのか、など具体的なところを検討し、答えを出す研究を進めています。

ワークショップの写真
大熊インキュベーションセンターが主催した「ゼロカーボンワークショップ〜素人質問大歓迎のエコ会議!〜」で解説する様子

地域ごとに、きめ細やかに取り組むことの大切さ

そのひとつとして、福島県大熊町におけるカーボンニュートラルに向けたまちづくりの中で、具体的なエネルギーシステムをデザインし、提案する研究に取り組んでいます。大熊町は、東京電力福島第一原子力発電所の立地町で、東日本大震災から2019年まで人が住めない町でした。復興が進みつつありますが、カーボンニュートラルの達成とまちづくりの両立が課題となっています。このため、実際に国環研で研究している技術を通じて、例えば、地域内で再生可能エネルギーを導入した場合にビジネスとして成り立つのか、本当にそのビジネスを地域で維持させられるのか、地域の方が受け入れて活用できるのかといったことを、収支や雇用の視点、地域に生まれる価値を含めて検証しているところです。
それらに大きくつながる研究成果として、大熊町が持つ“地域の力”を「8つの地域資本」として整理し、とりまとめたリーフレットを町の人たちと一緒に作成しました(※注1)。大熊町は2019年の避難指示解除からめまぐるしく開発が進んでおり、自分たちが今どういう状況に置かれているのか、全体像がわからないといった現状があります。リーフレットでは、町にもともとある自然や文化、人々のつながり、新しく復興から生まれた取り組みなどを大熊町の“資本(力)”として可視化し、課題解決や新しい可能性を見出すための基盤として活用してもらえるよう提案しています。

インタビュー風景の写真
インタビュー中の大西主任研究員。手にもっているのが、実物の「大熊リーフレット 紡ぐ2025ver –大熊町をつなぐ地域の力–」。2025年10月には、大熊町でリーフレットをテーマとしたパネルトークイベントを開催しました。イベントレポートページより、リーフレットの閲覧&ダウンロードが可能です(※注1)。

大熊町での取り組みはあくまでモデルです。地域ごとにきめ細やかに対応していくことは、世界中のまちづくりに応用可能ですし、それが私の研究の大きなモチベーションでもあります。歴史的に見ても、日本のまちづくりは戦前と戦後で大きく変わりました。戦前は自然の摂理や風土に沿ったまちづくりが各地で実施されていましたが、戦後の早急な復興により、地域のアイデンティティというものが一度取り払われ、全国で画一的な政策が進められました。例えば、戦後の植林事業。国策として木造住宅をたくさん作るために日本各地でスギやヒノキ等が植えられましたが、現代でスギ花粉やクマ問題に困るなど、過去の対策がかえって状況を悪くすることも指摘されていたりしますし。こうした背景からも、地域ごとにきめ細やかに対応することがとても重要だとわかります。
私がなぜ一生懸命にひとつの地域を丁寧にフォローしているかというと、丁寧に取り組むというやり方がよいことを明確にし、「こういう手順を踏んでいけばいいよ」、と伝えていくができ、それぞれの地域の実情に合った形の“デザイン”ができていくと考えているからです。
カーボンニュートラルの達成は、世の中の仕組みを変えることが大前提となるため、それぞれの地域が進める必要がありますし、ほふく前進のように地道で時間がかかる、本当に大変な取り組みです。ただ、だからこそ、自ら創り上げる喜びにもつながります。一歩ずつ、徐々にできることを進めていくためにも、その基盤となる地域の力を整理し、足場として活かせるよう準備していけたらと考えています。

ワークショップの様子
大熊町における自治体職員の方とのワークショップの様子

幅広い専門性をもとに、多様なセクターをつないでいく

こうした研究を進める上では、私自身が“将来”についてよく知っていることも大切です。気候変動などの影響により将来どんなことが起こり得るのか、そのための技術開発や対策はどうなのか。専門家としての判断材料や情報を私は持っていますが、地域の人たちは今どんな技術があり、世の中の動向がどうなっているか、などは詳しくはわからないですよね。まちづくりを進めていく中でなにかを作ったり、導入したり、産業を誘致したりということは簡単な話ではありません。色んなゴールを知っている上で、すこし先のこと、昔のことなどを地域の話を聞きながらつないでいくことが、私の役割でもあります。
私の専門は「インダストリアル・エコロジー」といって、いわゆる「産業エコロジー」と呼ばれる分野です。産業と地域におけるさまざまなプレイヤー同士の繋がりや関係性を生態系システムに見立て、持続可能な社会を目指すための産業の在り方を研究しています(※注2)。そのなかでも「インダストリアル・シンバイオス」(産業共生)という、異なる産業セクターをつなぎ、地域に産業エコロジーのアイディアを実装していく研究に取り組んでいるのですが、これは多方面の知識がないとできない学際的な分野でもあります。
私はもともと土木工学の出身で、博士論文では産業の副産物やエネルギーの融通、廃棄物の流れが産業団地と周辺地域でどう起きうるか、といった研究をしていました。エンジニアとして技術システムのデザインや提案もできますし、また副産物やエネルギーを使用する産業側のこともよく把握しています。また、産業が地域にもたらす影響もわかります。これまで培ってきた幅広いバックグラウンドがあることも、今の仕事を進めるための大きな強みだと考えています。

デスク周りの写真
デスク周り。現場と理論・アナログとデジタルの往復が研究の源とのこと。

地域でこの先も続いていく取り組みを提案するために

まちづくりにおける役割として、私は研究の視点から検討した提案を行っていますが、最終的になにを選択し、取り組んでいくかを決めるのは、あくまでその地域に暮らす人たちです。どんな状況だったとしても、やはり自分たちで決めていかないと取り組みは長続きしません。これから10年、20年と続けていける仕組みも必要ですし、その辺りも考慮した計画をデザインする検討も始めています。
考え方としては、バトンタッチしていくような継承のイメージに近いのですが、例えば、伊勢神宮の式年遷宮では20年に一度、社殿をはじめ装束や神宝などすべてを新しく造り変えることで1300年の長い歴史を継承し続けています。まちづくりでも、次の世代にバトンタッチして引き継いでいくということが“デザイン”できれば、この先も続いていく流れを作ることができるのではないか、と考えています。

国環研では、福島で本腰を入れ始めた「地域協働」研究をさらに進展させていく予定です。地域の自然と暮らしを丁寧に読み解き、研究を地域の現場と切り離さず、環境課題に科学の力で寄り添う「地域協働」研究が、ますまず重要になっていくと考えています。
「地域協働」は、「まずは一緒になにかをやる」ということに重きを置いて、取り組んでいきたいというのが私の思いです。協働作業の力は本当に大きいです。まちづくりは関わるステークホルダーが多く、みんなが当事者として一緒に取り組んでいくためには、周りの人たちとの関係性を地道にしっかり築いていくことが大切です。
地域の人たちに対しても、同業の研究者に対しても、関わり合うすべての人たちから謙虚に学ぶということができれば、その分野の言語や基盤となる考え方を知ることができます。専門家として知見の幅を広げていくとともに、そこに暮らす人たちの思いもきちんと汲みとりながら、研究の成果を「正解」として示すのではなく、地域にとって最善の選択を支える“デザイン”を科学的に扱えるよう研究に取り組んでいきたいと思います。

開発中の大野駅と筆者の写真
開発中の大野駅(大熊町)にて
※注1:語り合う場から、つながりを取り戻す パネルトークで見えた『紡ぐ』の可能性
[大熊リーフレットパネルトーク開催レポート]
https://www.nies.go.jp/fukushima/magazine/event/20251006_report.html
※注2:これからの福島に合った産業のかたちとは? 現場から探るイキイキとした地域づくりへの道
https://www.nies.go.jp/fukushima/magazine/research/202309.html

   
国立環境研究所 福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 / 主任研究員
※執筆当時
   
【取材・記事】国立環境研究所 連携推進部 社会対話・協働推進室 / コミュニケーター
前田 和 連携推進部社会対話・協働推進室の写真
※執筆当時

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