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G-CIEMSの背景

ここでは、一般的な環境モデルに関する背景を説明します。

環境モデルとは

環境モデルという言葉は、はっきりとした定義が決められている訳ではありませんが、環境リスクに関する研究分野では多くの場合、環境中の化学物質の挙動を数理的に解くものを指します。仮想的な時空間で、着目した物質の挙動を数理的に仮定し、目的となる時間・濃度・距離などを算出します。モデルの利用目的に応じて仮想的な時空間の仮定が異なるため、結果として様々なモデルが存在しています。近年のコンピュータ性能の向上もあって、簡易的なモデルから、非常に複雑なモデルまで多くの環境モデルが存在しています。


環境モデルの利用目的

環境モデルには様々な利用目的があります。必ずしも全てのモデルがどれか一つに当てはまる訳ではありませんが、例えば、以下のように整理することができます。

定性的な傾向の把握

定性的な傾向を把握することが目的のモデルには、一つの特性に着目して複数の化学物質の順位付けをするものや、特定の化学物質に関して残留しやすい媒体や場所を把握するものなどがあります。残留性や拡散性、生物蓄積性などの着目する特性や、対象とする化学物質の物性・排出状況が異なる場合、各特徴に適したモデルが必要になります。

絶対濃度の把握

絶対濃度を把握することが目的のモデルの場合、対象とする仮想時空間や媒体の違いで様々なモデルが存在します。時間的なモデル条件の違いとしては、平衡定常、非平衡定常、非平衡非定常などの分配の状態に関する仮定や時間分解能が挙げられます。空間的な違いとしては、1ボックス、格子状、入れ子状など空間を区切る方法による違いや、空間的な分布を解く計算方法の違いなどが挙げられます。さらに特定の媒体を対象にしているか、多数の媒体(多媒体)を対象としているかの違いもあります。

曝露評価

環境中に限定せず、食品や飲み水に含まれる化学物質の量を推定し、全ての経路の曝露量算出を目的とするモデルもあります。そういったモデルを環境モデルと呼んでいいかどうかはわかりませんが、密接に関わっていることは間違いありません。


環境モデルの支配因子

対象媒体や時空間スケールによって支配因子は異なり、媒体ごとに特色があります。

大気 他の媒体に比べて移動速度が非常に速いです。太陽光による反応の可能性がある点や、数時間で風・雨・光条件が変化する点、直接的な人への曝露経路になる点が特徴として挙げられます。
河川 大気に次いで移動速度が速いと考えられます。河川流量の特徴として、融雪や降雨(雨季・乾季)などにより季節的に変動する点や、集中豪雨などにより数時間単位で急激に変動する点が挙げられます。また、複雑な用水ネットワークや農業用水・工業用水としての利用など人間活動による影響も無視できない場合があります。
湖沼・海 成層期と循環期で流動状況が大きく変わります。深層や底質が嫌気状態になることで水質に影響を及ぼすこともあります。海洋大循環などの三次元流動や、植物・動物プランクトンの動態を含めた生態系モデルを構築しないと再現できない現象もあります。
土壌(表層) 他の媒体に比べると移動速度は遅いです。降雨による表面流出や土地利用(森林、農地、人工構造物)の違い、植物への移行、地下水浸透、大気からの沈着が重要な因子になります。
土壌(深層) 移動速度は非常に遅いです。例えば地下水は地盤中をゆっくりと移動します。その間、土壌との吸脱着や微生物による分解の影響を受けます。

環境モデルの入力データ

環境モデルを用いて計算するためには、いくつかの入力データを整備する必要があります。環境モデルごとに必要な入力データは異なります。

化学物質の排出量 時空間別媒体別排出量など、モデルの特性に合った分類での排出量が必要になります。
化学物質の特性 媒体間移動を支配する物理化学的物性値や、分解を支配する物理化学生物学的物性値などの化学物質自体が有する特性です。化学物質の用途分類や使用頻度、使用形態などの利用実態に関する特徴が入力データになる場合もあります。
地理データ 通常は数週間・数か月単位での時間変動を考慮しない空間的特徴として土地利用状況や煙突の高さ、土地の勾配などが挙げられます。ただし、農作業によって変化する農地など例外もあります。

気象・水文データ

時間変動を考慮することが多い空間依存の物理現象として、降雨量や河川流量、気温、風速、風向などが挙げられます。モデル内では平均的な値を使う場合もあります。
モデル計算条件 数値解析のための計算条件や、時空間の解像度、境界条件、初期条件などが挙げられます。