国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.2 (2)
特集 OECD化学品プログラムへの貢献
OECDにおける化学物質対策―高生産量化学物質の安全性点検作業について

国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター
総合評価研究室長(当時) 江馬 眞

 経済協力開発機構(OECD: Organization for Economic Cooperation and Development)には現在30カ国が加盟し、持続可能な経済成長と雇用、生活水準の向上及び貿易自由化のための政策を推進することを主な目的として活動している。環境保健安全プログラム(EHS)では、化学産業及びバイオテクノロジー産業によって生産され、市場で売買される製品で、環境、経済、健康と生活水準、世界貿易、地域産業及び農産物に影響を及ぼすものに関する取り組みが展開されている。化学産業は世界で最も大きな産業の一つであり、化学産業による生産額は年間1兆5千億米ドル、工業製品の世界貿易額の約9%を占めている。OECD加盟国は化学製品の75%を生産しており、加盟国政府は化学物質を可能な限り安全に生産、使用及び廃棄することを確保する責任があることから、1970年代の終わりころから有害性試験結果及びリスク評価に基づいて化学品の規制をしてきた。近年、化学物質に関するテーマはEHSプログラムの環境問題の中でも現在最も重要なものとなっている。

 現在のEHSプログラムの前身として化学品プログラムが1971年に設立され、当初はヒトの健康や環境に有害なPCBや水銀等の特定の化学物質を対象としていたが、1970年代半ばから新規化学物質が市場に出る前に各国が試験やリスク管理ができる共通の方法の開発に取り組み始め、1980年代にはリスク評価方法、リスク管理手法、事故の防止・対策、事故後の対応に関するプロジェクトが始まり、また生産量の多い既存化学物質の調査が開始された。1990年代には農薬、バイオテクノロジー製品、PRTRについてのプロジェクトが開始されている。現在、化学物質プログラムでは、テストガイドラインプログラムとして健康、環境に対する有害性試験方法の開発、GLPプログラムでは国際調和と基準の利用拡大のための活動、新規化学品プログラムでは企業が新たに上市をする新規化学物質の評価を行う際の時間、資金、人的資源を削減するための活動、有害性の分類と表示プログラムでは有害化学物質の分類方法の国際的調和を図ることを目的としている。更に、既存化学物質プログラムでは新規化学物質の届出制度が整備される以前に上市され有害性評価が不十分な化学物質に関する取り組みがなされている。

 高生産量化学物質点検プログラム(HPV Programme: High Production Volume Chemicals Programme)は1992年に開始され、物性、暴露情報、生態毒性及びヒト健康影響に関する既存化学物質の初期評価を行なっている。本プログラム開始当初、HPVは2カ国以上で1,000トン以上もしくは1カ国で10,000トン以上生産されていることが基準とされ、1990年版のOECDのHPVリストには1,592物質が登録されていた。現在のOECDのHPVリスト(The 2004 OECD List of High Production Volume Chemicals) には、OECD加盟国で年間1,000トン以上生産または輸入されている4,843物質が登録されており、うち1,000物質以上については分担する各加盟国と企業がすでに決まっている。加盟各国政府はスクリーニング用試験データセット(SIDS: Screening Information Data Set)の項目に従って情報を収集し、必要に応じて実験を行い、作成した評価文書を初期評価会議(SIAM: SIDS Initial Assessment Meeting)に提出し協議を行っている。

 SIAMは1993年に第1回がパリで開催されてから、年に2回、現在までに21回開催されてきた。第10回SIAMまで加盟国政府がスポンサーとなり初期評価を行い、第11回(2001年)からは国際化学工業協会協議会(ICCA:International Council of Chemical Associations)イニシアティブとして評価文書の作成に協力している。第1回から第20回SIAMまでに495物質の初期評価について合意されている。日本政府は第1回から評価文書を提出しており、2005年4月に行われた第20回SIAMまでに107物質の評価文書について合意を得た。そのうちICCAとしては、日本/ICCAとしては、第11回から第20回SIAMまでに43物質の評価文書作成に協力し合意されている。OECDのHPVプログラムでの安全性評価は、プログラムの効率化・加速化を目指して常に変革してきており、近年の傾向としては、類似する複数の化学物質をまとめて評価する「カテゴリー評価」が行われるようになってきており、第20回SIAMまでに計153物質についてのカテゴリー評価の合意が得られている。

 日本は現在までに米国に次いで多くの評価文書を提出してきており、本プログラムの中で重要な役割を果たしている。また日本/ICCAとしても活動しており、より一層の日本/ICCAの自主的かつ積極的な本プログラムへの参加が期待される。日本政府担当の文書の作成、ICCA作成文書に対する支援及びピアレビュー、各国からのコメントに対する対応、更に各国作成の文書に対するコメント提出、会議出席は(独)国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター(生態毒性)、(財)化学物質評価研究機構安全性評価技術研究所(物性)、(独)産業医学総合研究所(曝露情報)、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター総合評価研究室(ヒト健康影響)の専門家によって行われているが、本プログラムへの更なる貢献のためには人的補強等を含めて関係機関のより一層の理解と支援が望まれる。

初期評価会議の概要及び成果については下記の論文を参照されたい。


著者長谷川隆一、中館正弘、黒川雄二
論文OECD化学物質対策の動向、J. Toxicol. Sci., 24, app. 11-19(1999).

著者長谷川隆一、鎌田栄一、広瀬明彦、菅野誠一郎、福間康之臣、高月峰夫、中館正弘、黒川雄二
論文OECD化学物質対策の動向(第2報)、J. Toxicol. Sci., 24, app. 85-92(1999).

著者長谷川隆一、小泉睦子、鎌田栄一、広瀬明彦、菅野誠一郎、高月峰夫、黒川雄二
論文OECD化学物質対策の動向(第3報)、J. Toxicol. Sci., 25, app. 83-96(2000).

著者長谷川隆一、小泉睦子、広瀬明彦、菅原尚司、黒川雄二
論文OECD化学物質対策の動向(第4報)、J .Toxicol. Sci., 26, app. 35-41(2001).

著者高橋美加、平田睦子、松本真理子、広瀬明彦、鎌田栄一、長谷川隆一、江馬 眞
論文OECD化学物質対策の動向(第5報)-第12回及び第13回OECD高生産量化学物質初期評価会議(2001年)、国立医薬品食品衛生研究所報告、112, 37-42(2004).

著者高橋美加、平田睦子、松本真理子、広瀬明彦、鎌田栄一、長谷川隆一、江馬 眞
論文OECD化学物質対策の動向(第6報)―第14回OECD高生産量化学物質初期評価会議(2002年パリ)、化学生物総合管理学会雑誌、1, 46-55(2005).

著者松本真理子、田中里依、川原和三、菅谷芳雄、江馬眞
論文OECD高生産量化学物質点検プログラム-第19回初期評価会議概要、化学生物総合管理学会雑誌、1, 280-287(2005).

著者松本真理子、鈴木理子、川原和三、菅谷芳雄、江馬眞
論文OECD高生産量化学物質点検プログラム-第20回初期評価会議概要、化学生物総合管理学会雑誌、1, 445-453.

著者高橋美加、平田睦子、松本真理子、広瀬明彦、鎌田栄一、長谷川隆一、江馬 眞
論文OECD化学物質対策の動向(第7報)―第15回OECD高生産量化学物質初期評価会議(2002年ボストン)、国立医薬品食品衛生研究所報告、123(2005) 印刷中

著者高橋美加、松本真理子、川原和三、菅野誠一郎、菅谷芳雄、広瀬明彦、鎌田栄一、江馬 眞
論文OECD化学物質対策の動向(第8報)-第16回OECD高生産量化学物質初期評価会議(2003年パリ)、化学生物総合管理学会雑誌、投稿中

著者松本真理子、高橋美加、平田睦子、広瀬明彦、鎌田栄一、長谷川隆一、江馬 眞
論文OECD高生産量化学物質点検プログラム-第18回初期評価会議までの概要、化学生物総合管理学会雑誌、投稿中.

リスクセンター四季報 Vol.3 No.2 2005-10発行


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