国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.1 (5)
Topics マルチメディアモデルを用いた環境動態予測 ~MuSEMの開発~

曝露評価研究室研究員(当時) 今泉 圭隆

 化審法では、新たに製造・輸入される化学物質については、その分解性、蓄積性及び毒性に関する試験に基づいて有害性を判断しています。化学物質の環境中での残留性を分解性・蓄積性試験に加えて、各化学物質の主要な残存媒体や化学物質自体の特性を考慮し、環境中の動態を予測できればより適切な評価や管理に繋がります。広範な性質を持つ化学物質について総合的なリスク評価に利用することを目的として我々は各種の環境動態予測モデルの構築を行っています。

 環境動態予測には、モデルの用途、対象地域、対象媒体等によって様々なモデルが使用されています。例えば、米国環境保護庁(USEPA)にて有害物質規制法(TSCA: Toxic Substances Control Act)の判断に用いられているEXAMSやヨーロッパにて環境リスク評価スキームとして使用されているGREAT-ERなどがあります。日本では農薬取締法において予測環境中濃度(Predicted Environmental Concentration: PEC)の算定に環境モデルが利用されている例があります。当センターでは、各環境媒体への分配予測を行うマルチメディアモデルであるMuSEM(Multimedia Simplebox-systems Environmental Model)、湖沼モデル、沿岸域モデル、河川モデルを開発・構築しています。本稿では、環境全体を概略的に捉えるMuSEMの概要を紹介します。

「図1:リスク評価のフロー」を示す画像

 MuSEMは、1994年にオランダの国立公衆衛生・環境保護研究所(RIVM)の化学物質評価グループが開発したUSES(Uniform System for the Evaluation of Substances)を基にして構築されたモデルで、Mackay Level ・型(非平衡・定常・移流あり)の動態予測シミュレーションモデルです。環境へ放出された化学物質の大気、水、土壌、生物等の多媒体中での挙動を予測し、さらにヒトを対象とする健康リスク評価や環境中の生物を対象とする生態リスク評価も行うことを目指す統合アセスメント・プログラムです(図1)。対象空間を3つの領域(global、regional、local)に分け、各領域内の複数の媒体間の挙動をモデル化してその濃度を推定します。初期設定では、regionalとして日本列島全体、localとして都道府県を選択して予測することができます。

 ユーザーの利便性を向上させるためにMS Excel上にプログラムを構築し、モデル内で使用する係数や数値、計算式を全て参照できる設計にしました。そのため、条件や設定の変更が容易なため、非常に自由度が高いものになっています。さらに、日本の地域情報(各都道府県のデータ)や、主要な化学物質の毒性データ、PRTRデータ、排出量の推定に必要な化審法指定数量のデータ、環境省の化学物質環境実態調査(いわゆる黒本調査)における実測データをデータベース化し、プログラム本体と連動させ、簡便にデータ参照・選択・入力が行えるようになっています(図2)。

 このシステムは、現在環境省の環境リスク初期評価において対象化学物質の各媒体中での残存比率の推算に用いられています。当センターでは、本年度中のWeb上での公開を目指してインターフェースの操作性の向上等の最終的な作業を行っています。

「カテゴリーアプローチの手順」を示す図

リスクセンター四季報 Vol.3 No.1 2005-06発行


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