ご挨拶

エコチル調査運営委員会委員長(研究代表者)

子どもたちの未来のため、力をあわせて前に進みましょう

 2011(平成23)年1月、環境が子どもの健康に与える影響を明らかにするための調査が国(環境省)の事業として始まりました。この調査の正式な名前は「子どもの健康と環境に関する全国調査」といい、エコロジーとチルドレンとをかけあわせて「エコチル調査」と名づけられました。世界では、エコチル調査の英語の頭文字をとって「JECS(ジェックスと読む人が多いようです)」と呼ばれています。全国15か所で約10万人の子どもを対象に実施中です。

 今日におけるわが国の環境は、公害病が大きな社会問題となった高度経済成長期に比べ、大きく改善しています。その一方で、近年、子どもたちにぜん息や肥満などの不健康な状態が増えたとの統計があり、胎児期から小児期にかけての環境がこうした健康問題の原因のひとつではないか、という指摘がなされています。この問題意識は世界に共通することが、1997年に米国マイアミで開催されたG8環境大臣会合で確認され、各国が協力して取り組むようになりました。そうして日本で始まったのが、このエコチル調査です。

 子どもの健康状態は、環境要因に加え、遺伝要因、生活習慣要因、そして社会要因によって決まります。先進国では公害病の多くが解決し、そして医学や関連する科学技術の進歩により、低レベルの環境中の化学物質が他の要因と相互に作用しながら健康に与える影響を、明らかにできる時代になりました。エコチル調査では化学物質はもとより、子どもの健康に影響を与えうるさまざまな要因を大規模に調べることにより、暮らしや社会をより良くするために役立つ、また安心の根拠となる高いレベルの科学的証拠を得ることができます。

 日々、新しい研究成果が発表されていますが、私たちエコチル調査に携わる研究者は、子どもたちが安心して暮らせる未来を作るために、努力を続けてまいります。エコチル調査の趣旨に賛同し、協力いただいている参加者および関係機関等の皆様、そして暖かく見守りいただいている国民の皆様に、深く感謝申し上げ、また、引き続いての応援をお願いすることばとさせていただきます。

名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野 教授 上島 通浩