民主主義にまつわる短期志向を考える

執筆:尾上 成一 (社会システム領域 特別研究員)
2023.12.15

 社会の長期的な利益を犠牲にして目先の利益を追求すれば、政治は短期志向となります。民主主義の国には短期志向を誘発する要因がありそうですが、何が要因だと考えられるのでしょうか。また、短期志向の改善はできるのでしょうか。

この記事のポイント

  • 政治における短期志向により、気候変動などの長期的課題への対処が遅れることがある
  • 選挙民主主義には、短期志向を引き起こす要因があると考えられる 
  • 民主主義国家における短期志向を改善する策はある

1. 政策的投資を阻む短期志向

 社会が直面する課題を解決するために行われる政策の中には、私たちの将来の暮らしや、これから生まれてくる将来世代の暮らしをより良くすることを目的にしたものがあります。地球温暖化対策や、公共施設や道路といった私たちの生活を支える基盤(インフラストラクチャー)の建設・維持などです。こうした政策は、例えば地球温暖化防止といった長期的な利益(経済的な利益だけでなく、人々のためになる利益を広く含みます)のために、温室効果ガス排出削減に貢献する技術の導入といった費用1)を伴うことから「政策的投資 (policy investment)」2)と呼ばれることがあります。

 一方で、政策決定において長期的な利益を犠牲にして短期的な利益を優先することを、政治における「短期志向 (short-termism)」と呼びます3)。短期志向は、長期的にはより大きな利益を生み出そうとする政策的投資を妨げ、結果的に気候変動のような長期的な課題への対応を遅らせかねないため注意が必要です。

2. 短期志向を引き起こすと考えられている四つの要因

 しかし民主主義を採る国には、短期志向を引き起こす要因があるのではないかと考えられています。短期志向の要因とされるものの中で、代表的な四つを挙げます4)

(1) 選挙サイクル
(2) 有権者の選好
(3) 利益集団の影響
(4) 将来世代の人々が存在しないこと

 多くの民主主義の国では、4年から6年に一回の頻度で選挙が行われます5)。政府や政治家は次の選挙でも勝つために、この限られた任期中に有権者に利益をもたらそうとすることがあります。そうすると、現職の政府や政治家が任期中に解決できないような社会的課題への取り組みは、後回しにされてしまいます。

 また有権者は長期的な利益を見込む政策よりも、短期的に利益をもたらす政策をしばしば好むとされます。こうした有権者の選好は、すぐに得られる利得ほどその価値を高く評価する人間の心理的特性に由来すると説明される場合もありますが6)、長期的利益を見込む政策が期待された通りの結果を生むのかが不確実であることに起因するという研究もあります7)

 さらに政策的投資は、それによって短期的な費用を負担することが見込まれる利益集団からの反発を招くことがあります8)。こうした利益集団からの影響により、政府が政策的投資に消極的になる場合があると考えられます。

 そして、まだ生まれていない将来世代の人々は、現在の政策決定過程に参加することはできません。従って、将来世代の人々が自らの利益を現在の政治的決定過程において主張することはできません。

 このように、短い選挙サイクル、有権者の政策選好、利益集団の政治的影響、現在の政治における将来世代の不在が作用し、民主主義の国の政治に短期志向が生じるとされます。

3. 問題は、短期志向をどのように改善するか

 さて、上記四つの要因が短期志向を引き起こすのであれば、選挙によって政治家を選ぶ選挙民主主義は短期志向に陥りやすいと言えそうです。しかし選挙民主主義が短期志向に陥りやすいからといって、民主主義自体を放棄する必要はないかもしれません。

熟議民主主義の実践

 例えば、「熟議民主主義 (deliberative democracy)」という考え方があります。熟議民主主義では、市民や政治家が互いの意見を述べ合い、相手の意見を尊重・傾聴し、自説の見直しや相手への説得を試みながら最終的な決定に至ることを目指します9)。相互尊重に基づいた話し合いである「熟議」は、そこに参加した人々の判断をより慎重なものにすることが知られています9)。つまり熟議によって、政治家や市民は政策投資の短期的費用にばかり目を向けるのではなく、長期的利益についても関心を向けることできるようになるかもしれません10)

 熟議民主主義は、選挙民主主義と対立する概念ではありません。熟議民主主義を実践する試みは、すでに始まっています。例えば、「気候市民会議 (Climate Assembly)」では、抽選で選ばれた数十から百名程度の市民が、気候科学や気候変動対策の専門家から話を聞き、ファシリテーターの助けを借りながら話し合いを行い、国や地方自治体などに向けた政策提言を行います。日本では札幌市をはじめとして各地で行われており11)、2023年9月から12月にかけて、国立環境研究所があるつくば市でも開催されています。(「気候市民会議つくば2023」については、本シリーズの「気候市民会議をつくばで行うことになり、その会議設計を考えています」、および「気候市民会議つくばで市の縮図となる参加者をどうやって選んだか」をご覧ください。)気候市民会議の実施が、気候変動対策をめぐる短期志向問題の改善に役立つことを期待しています。

議会に未来志向の役割を与える

 選挙民主主義における短期志向の改善に役立つと考えられる試みは他にもあります。例えば、フィンランドには国会議員で構成される「未来のための委員会 (Committee for the Future)」があります。未来のための委員会は、1993年にフィンランド国会の委員会として設立されました。未来のための委員会の任務は「将来の重要な問題や機会について政府との対話を行うこと」とされており12)、議会を代表して、フィンランド政府に重点的に取り組んでもらいたい事柄を盛り込んだ報告書の作成などを行っています13)。未来のための委員会は、選挙で選ばれた国会議員が短期志向を改善する役目を担う組織だと考えられます。

将来世代の人々の利益や権利を守る官職を設置する

 一方で、将来世代の人々の利益を守ることを目的とした官職を新たに立ち上げた例もあります。ウェールズでは「ウェールズのための将来世代コミッショナー (Future Generations Commissioner for Wales)」という官職が2016年に設置されました。将来世代コミッショナーは、ウェールズの公的機関や政策決定者に対し、その決定がもたらす将来世代への影響について考えることを支援し、必要であれば勧告を行う権限をもっています14)。将来世代コミッショナーは選挙ではなくウェールズの大臣によって任命され、任期も7年と比較的長いため、政治家よりも長い時間軸で社会的課題に取り組むことが期待されています10)

4. 最後に

 短期志向を改善する方法として、1)熟議民主主義の実践、2)議会に未来志向の役割を与える、3)将来世代の人々の利益や権利を守る官職を設置するという三つの試みを紹介しました。(その他の実践例については、本シリーズの「『制度化』で将来の人々を守る」をご覧ください。)将来への長期にわたる影響に配慮できる社会を作っていくためには、このように短期志向を改善するために民主主義制度を「再設計」する方法を模索していくことが大切になるでしょう。

執筆者プロフィール: 尾上 成一(おがみ・まさかず)
博士(哲学)。民主主義や世代間正義・倫理に関心をもっています。哲学だけではなく、さまざまな分野の研究者との協働に魅力を感じています。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご意見などをからお寄せ下さい。
今回の執筆者から皆様への質問:日本(または、お住まいの国や地域)において、あなたが考える政策的投資が必要な事柄は何でしょうか。

参考文献

2) Jacobs, A. M. (2011). Governing for the Long Term: Democracy and the Politics of Investment. Cambridge University Press.

3) González-Ricoy, I., and Gosseries, A. (2016). Designing institutions for future generations: An introduction. In: González-Ricoy, I., and Gosseries, A. (eds.). Institutions for Future Generations. Oxford University Press.

4) MacKenzie, M. K. (2021). Future Publics: Democracy, Deliberation, and Future-Regarding Collective Action. Oxford University Press.

10)Smith, G. (2021). Can Democracy Safeguard the Future? Polity Press.