全国ヒシサミットとは?
国立環境研究所福島地域協働研究拠点(以下、福島拠点)は、2026年9月26日に国立磐梯青少年交流の家(猪苗代町)で開催された「全国ヒシサミット2026 in 猪苗代湖」を共催しました。
サミットの猪苗代湖での開催は今回が初めてです。
「全国ヒシサミットとは?」
福島県に在住しながら猪苗代湖やヒシについて詳しくなかった筆者が、一参加者としてレポートします。
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「全国ヒシサミット2026 in 猪苗代湖」共催のお知らせ
ヒシの実は食用として、日本各地で活用されてきました。
全国ヒシサミットでは、これまで各地のヒシの活用事例や、ヒシの成分に関する研究成果が報告されてきました。
第1回は山形県鶴岡市、第2回は佐賀県神埼市、第3回はオンライン形式で開かれました。
4回目となる今回は、初めて猪苗代湖で開催されることとなりました。
猪苗代湖は福島県のほぼ中央にある湖で、「天鏡湖」とも呼ばれています。
2025年7月には、コハクチョウの飛来地としてラムサール条約湿地に登録されました。
一方で、湖の水質は変わりつつあります。ヒシなどの水草が増えすぎることは、水質や湖岸の景観を損なう原因の一つとされてきました。
福島拠点では、福島県環境創造センターなどと協力して、猪苗代湖とその流域の環境を研究してきました。今回はその成果の一部を紹介し、湖の恵みを守りながら生かしていく取り組みを後押しするため、サミットを共催しました。
今回のヒシサミットは、三部構成で開催されました。
第一部の「全国ヒシマルシェ」では、北海道や佐賀など全国各地のヒシを使った商品や取り組みがブースで紹介されました。福島県からは、福島拠点が猪苗代湖周辺のプロジェクションマッピングを展示するとともに、あさか開成高校や日本大学工学部の取り組みが紹介されました。
第二部・第三部では、専門家による基調講演に加え、全国の事例や課題、ヒシの可能性について語り合うパネルディスカッションが開催されました。
水草ヒシとは?
ヒシは、水中の窒素やリンを取り込んで成長します。窒素やリンは、量が増えるとプランクトンの増殖につながり水質を悪化させる要因となるため、生育中のヒシには、これらを水中から取り除く働きがあります。
それでは、なぜヒシが水質汚染の一因とされるのでしょうか。
ヒシは枯れたあと湖底に沈み、腐敗すると大量のヘドロとなります。
これが、かえって水質を悪化させてしまう一因であると考えられています。
そこで、水質改善に向けて、猪苗代湖ではヒシの除去の取り組みが進められています。
ヒシは本当に「厄介者」なのか
ヒシは、増えすぎると景観を損ね、枯れて湖底に沈むと水質低下の一因になります。
では、猪苗代湖から取り除くべき「厄介者」なのでしょうか。
第二部の基調講演では、研究や地域での実践をもとに、ヒシのさまざまな側面が紹介されました。
国立環境研究所気候変動適応センターの西廣淳副センター長は、ヒシの生態や役割について解説しました。ヒシは枯れると水質低下の一因になる一方、魚の隠れ場所にもなります。西廣淳副センター長は、こうした働きを踏まえ、ヒシを単純に「悪いもの」とは言い切れないと話しました。
西九州大学健康栄養学部の安田みどり教授は、「ヒシに秘められた健康パワー」と題して、栄養学の視点からヒシの特徴を紹介しました。ヒシにはポリフェノールが含まれ、抗酸化作用が期待されるといいます。講演では、ヒシを使った菓子やハンドクリームなど、食や美容の分野での活用例も示されました。
暮らしの中で使われてきたヒシ
興味深かったのは、ヒシの文化的な側面に触れる話題です。
国際忍者学会員の虎衛門氏によるセミナーでは、ヒシの実が忍者の道具「まきびし」に使われていた歴史が紹介されました。会場には忍者体験のコーナーも設けられ、ヒシと忍者とのつながりを体験しながら知る機会となりました。
ヒシの形は、家紋や校章のモチーフにも使われています。特に家紋はヒシの強い繁殖力に子孫繁栄の願いを重ねているとも言われています。現在は水質や景観との関係から「厄介者」と呼ばれることもありますが、文化や歴史をたどると、ヒシは暮らしのなかで親しまれていたことがわかりました。
「良い」「悪い」を決めるのは誰か
第三部のパネルディスカッションでは、「ヒシがつなげる地域の未来」をテーマに、上山氏(山形県鶴岡市 自然学習交流館ほとりあ)のコーディネートのもと、西廣淳副センター長、安田みどり教授、猪苗代湖のヒシを使った商品開発に取り組む「いなびし」の長友海夢社長が意見を交わしました。
長友海夢社長からは、「水質の良し悪しは人間の基準で決められている」という話がありました。
猪苗代湖はかつて酸性を示し、生きものが少ない状態にありました。そのため、水中の有機物が少なく、水質指標で日本一と評価された時期があったといいます。その後、水質が中性に近づいて生きものが戻り、ヒシも繁殖するようになると、今度は水質の悪化として捉えられるようになりました。
生きものが増えるということは豊かな生態系が育まれているように思えますが、それによって繁殖したヒシは水質を悪化させています。
長友海夢社長の話からは、同じ湖の変化でも、何を望ましい状態と考えるかによって、評価が変わることがわかります。水の透明さを重視するのか、生きものが暮らせる環境を重視するのか、湖岸の景観を守るのか、地域資源として活用するのか。立場によって、ヒシの見え方も異なります。
では、ヒシは厄介者なのでしょうか。
この問いへの答えとして、西廣淳副センター長が基調講演で述べた「ヒシを厄介者とするかは社会次第」という言葉が印象に残りました。
ヒシそのものが初めから厄介者なのではありません。社会がヒシをどのように生かし、湖の環境とどう折り合いをつけるかによって、その存在は厄介者にも、地域に必要とされる資源にもなり得ます。
ヒシには、水中の窒素やリンを吸収する性質があり、魚の隠れ場所にもなります。実は食用となり、含まれる成分に注目し、お菓子や化粧品に生かす試みも続いています。忍者のまきびしや家紋など、人の暮らしや文化とも長く関わってきました。
こうした特徴が広く知られ、ヒシが「厄介者」として排除されるものではなく、地域に「歓迎されるもの」「必要とされるもの」になれば、猪苗代湖の水質を守ることと、ヒシを資源として生かすことの間に、より良いバランスを見つけられるかもしれません。
猪苗代湖とヒシを知るきっかけに
猪苗代湖は、郡山市や会津若松市の水道水源としても利用され、地域の暮らしを支えています。
筆者自身、レジャーで訪れる機会はあるものの、猪苗代湖の水環境やヒシが及ぼす影響については詳しく知りませんでした。今回のヒシサミットは、身近にある湖の環境と、そこで育つヒシとの関係を知る機会となりました。
プログラム全体を通して、実行委員会やパネリストの皆さまが、ヒシに愛情や熱意を持って向き合ってきたことが伝わってきました。
ヒシの利活用を入り口に、猪苗代湖の水環境や生態系への向き合い方を考えるきっかけが広まればと思います。
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イベント概要
- イベント名
- 全国ヒシサミット2026 in 猪苗代湖 -ラムサール条約登録記念-
- 開催日
- 2026年9月26日(土)10時〜16時30分
- 会場
- 国立磐梯青少年交流の家 3階第6研修室
- 当日のプログラム
- 第一部 全国ヒシマルシェ第二部 基調講演第三部 忍者体験セミナー、パネルディスカッション「ヒシがつなげる地域の未来」
- 主催・共催
- 主催:第4回全国ヒシサミット in 猪苗代湖実行委員会
共催:国立研究開発法人国立環境研究所 - 後援
- 後援:福島県、郡山市、会津若松市、猪苗代町
※本サミットは『「きらめく水のふるさと磐梯」湖未来基金助成金』の支援を受けて開催されました。