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排出推定ツールの背景

排出推定

化学物質の環境中濃度を予測する場合、環境中に排出される化学物質の量を把握することが最初の一歩となります。世の中には数万種ともいわれる化学物質が様々な用途で利用されており、各化学物質の使用量ですら正確に把握することが難しい状況です。環境中に排出される化学物質はその一部であり、排出量を把握することは非常に困難なことです。排出推定とは、化学物質の環境中への排出量を、その物性用途使用条件などから推定することをいいます。

PRTR制度

日本では、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質排出把握管理促進法、または単に化管法)という法律があります。その法律の中で化学物質がどのくらい環境中に排出されるかを把握するためのPRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)があります。PRTR制度では、一定の規模以上の事業所指定化学物質について環境へ排出される量移動する量などを届け出ることとなっています。それと同時に、届出外の排出量が推計され、届出排出・移動量とともに毎年公表されています。PRTR制度によって、指定化学物質についての排出状況を把握するための貴重な情報が収集されます。しかし、一部の化学物質のみに限定されていますし、事業所からの届出内容がどれだけ現状を反映しているのか把握するのが難しいという問題もあります。

排出シナリオ文書(ESD)

化学物質の製造工程や加工・使用段階の各工程において排出率の推定方法を整理したものを排出シナリオ文書(ESD: Emission Scenario Documents)といいます。特定の化学物質の排出率を把握することを目的とせず、特定の用途や工程、使用方法における排出率の推定方法を包括的に捉えることを目的としています。特定の用途や工程などで利用される化学物質を網羅的に捉えることにより、より多くの化学物質を包括的に把握することが可能になります。様々な用途や工程に関してESDの作成が進められています。

USES

USES(Uniform System for the Evaluation of Substances)は、オランダの国立公衆衛生・環境保護研究所(RIVM)の化学物質評価グループが開発した化学物質のリスク評価手法です。化学物質の排出推定から簡易的な多媒体モデル、リスク評価の考え方などが整理されています。化学物質の排出推定の部分では、詳細なESDが整備されております。このシステムを利用することで多くの化学物質の簡易的なリスク評価を実施することが可能です。

MuSEM

MuSEM(Multimedia Simplebox-systems Environmental Model)は、前述のUSESを基にして国立環境研究所が開発した環境リスクの統合アセスメントプログラムです。MuSEMには、Mackay Level III型(非平衡・定常・移流あり)の動態予測シミュレーションモデル(環境動態モデル)が含有されており、特に化学物質の曝露評価に特化したアセスメントプログラムです(詳しくは、MuSEM公開ページをご覧下さい)。排出推定の機能も整備しており、USESにおいて記載されているESDを収録しています。MuSEMプログラムはMS Excel形式のファイルであり、ESDにおいて細かい条件で規定されている排出係数をワークシート上で表形式で整備しています。

地域配分の重要性

化学物質の環境中濃度を予測する場合、排出される化学物質の量とともに場所も重要です。例えば特殊な用途で限定的な場所で使用される化学物質と、一般的でどこでも使用される化学物質では、環境中の排出量が同じでも環境中の濃度分布の状況は大きく異なると考えられます。環境中の濃度分布が異なる場合には、当然、環境リスク評価の結果も異なります。従って、どこからどのくらい化学物質が排出されるかを推定することが重要になります。