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福島県の生態系を見守る取り組み~「これまで」と「これから」を考える~[福島県立船引高等学校 講師派遣レポート]

船引高校アクティブリーダーに向けた出前講義

2025年11月10日、福島県立船引高等学校「アクティブリーダープロジェクト」において、吉岡明良主幹研究員(国立環境研究所 福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室)が出前講義を行いました。

同プロジェクトは、地域に貢献するリーダーとしての資質・能力を育成することを目的とした、船引高校の特色のある取り組みの一つです。
東日本大震災による避難を経験した田村市の高校生が、地域の活性化や地域貢献のために自ら見て、考えて、アクションを起こすことを目指しています。
2017年度に10名程度からスタートしたこの活動は年々規模を拡大し、今年度は全校生徒の4割に相当する81名の生徒が地域の抱える課題に取り組んでいるそうです。

講義を担当した吉岡主幹研究員は里地里山の生物多様性・生態系を専門とし、2014年の着任以降、被災地の生物多様性(主に昆虫類)の研究を行っています。
講義は「福島県の生態系モニタリング~「これまで」と「これから」~」と題し、震災後の福島の環境と生態系の変化や現状、そして、未来に向けての取り組みについてお話ししました。

生物の継続的な観察・観測「生態系モニタリング」

2011年3月に発生した東日本大震災以降、福島県内では様々な形での環境の変化が起こりました。
原発事故、そして放射線の間接的な影響として避難によって地域に人が住まなくなったことは、そこに生息・生育する生き物にも大きな影響を与えると考えられました。

このような背景から、吉岡主幹研究員らは2014年から現在まで、主に避難指示区域を中心に生物の継続的な観察・観測(モニタリング)を実施しています。

福島が抱えるこれらの課題を明らかにするため、吉岡主幹研究員らは2014年から現在まで、主に避難指示区域を中心に生物への継続的な観察・観測(モニタリング)を実施しています。

生態系は、今後も人間生活を含めた環境の変化に伴い変化していくことが予想されます。
その変化を長期的に見守るために「継続的にモニタリングを続けていくための仕組み」が重要となります。

モニタリングの現場の写真や実際に観測されたデータを見ながら解説します。
モニタリングデータはウェブ上でも公開しています。(出展:国立環境研究所生物多様性領域生物多様性ウェブマッピングシステム「BioWM」

生態系モニタリングのこれから

一方で、予算・人材・時間などいろいろな制約から、研究者だけでモニタリングを行うことには限界があります。
安心安全につながる、信頼できるモニタリングを行うためには「その地域にお住まいの方々が地域の自然・生き物に興味を持ち、モニタリングに参加することが重要」と吉岡主幹研究員は考えます。

そこで、吉岡主幹研究員らは現在、生き物の情報をデジタル化し、人とAI両方が生き物を学ぶ仕組みを作ることに取り組んでいるそうです。

その活動の一つである、鳥の鳴き声学習ツール「とりトレ (https://www.nies.go.jp/kikitori/tori-tore/index.html)」は、録音された野鳥の鳴き声から種名を当てる、クイズ形式の学習ツールです。
これにより鳥の鳴き声から種を判別する技能の向上と野鳥への関心が高まることがわかっているそうです。とりトレは人が生き物を学ぶためのツールですが、今度はとりトレで学んだ方々がAIに生き物の声の聞き分け方を教えることができる仕組みづくりをめざしているとのことです。

吉岡主幹研究員は、人間とAI両方で取り組む「持続可能なモニタリングの仕組みを作ること」が、これからの生態系モニタリングと生物多様性にとって大切であると話し、今後の社会を担う高校生たちの動きに期待しているというメッセージで講義を締めくくりました。

講義を受けた生徒からは
「放射線の影響による生物個体数の増減や、モニタリングの活動などがあることを知り、自分の興味探求をさらに掻き立てる良い時間になった」
「普段考えない目線から震災の影響を知る機会は大切だと感じた」
「震災の影響というと人間の被害について報じられることが多く、自分自身もそちら側でしか物事を考えたことがなかったが、今回、虫の目線で震災の被害を知る貴重な時間になった」
といった感想が寄せられました。

また、講義後には、昆虫に興味をもつ参加者からのさらに専門的な質問も飛び出し、アクティブリーダーの皆さんの興味や活動の多様性を感じました。

今回の講義が、福島の未来を支える高校生にとって、課題を見つめ地域に向き合う新しい視点を得るきっかけとなったなら嬉しく思います。

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概要

イベント名
福島県立船引高等学校「地域復興 ~船高アクティブリーダー育成プロジェクト~」
福島県の生態系モニタリング~「これまで」と「これから」~
開催日時
2025年11月10日(月)
参加者
約60名

講師

吉岡 明良

福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室 主幹研究員

東京大学大学院農学生命科学研究科、国立環境研究所生物・生態系環境研究センターを経て同研究所福島支部(現:福島地域協働研究拠点)に着任。景観生態学や昆虫学の視点から生物多様性の保全、自然共生型社会の推進に関わる研究を行って来た。現在は福島県の避難指示区域とその周辺の生物多様性・生態系モニタリングや人口減少社会下での里地里山環境の評価等に取り組んでいる。