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2025年7月から8月にかけて、福島県、福島国際研究教育機構(以下、F-REI)、 日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)、国立環境研究所福島地域協働研究拠点(以下、福島拠点)が連携し、環境創造センター研究体験講座(コミュタンサイエンスアカデミア ネクスト)(以下、研究体験講座)が開催されました。
福島県では、近隣他県に比べて理系の大学や研究施設が少なく、研究に関心のある高校生が実際の研究に触れる機会が限られています。
そこで本講座は、高校生たちに科学への興味を喚起し、研究への意識を高めることで、福島県の未来の環境回復と創造を担う人材の育成を目的に実施されました。
過去の開催レポートはこちら
未来の研究者へ!福島の高校生が体験「環境とデータサイエンス」[環境創造センター三機関連携研究体験講座開催レポート]
各日程では、各機関がそれぞれの専門分野に基づいたコースを提供し、5時間にわたる研究体験が行われました。生徒たちは自分の関心に応じてテーマを選び、研究者が企画した講座を通じて、実際の研究活動を体験しました。
福島拠点は、以下の日程を担当しました。
7月17日:安積高校(郡山市)
8月1日:福島高校(福島市)
講座を担当したのは、五味 馨室長(福島拠点 地域環境創生研究室)です。
五味室長は、シミュレーションを活⽤した持続可能な将来社会ビジョンづくりを専門としています。
講座では、「環境に関するデータサイエンス」をテーマに、R言語を用いて福島県の市町村統計をデータ解析する演習が行われました。
この記事では、各高校を対象とした講座の様子をお伝えします。

7月17日 安積高校
2025年7月17日、福島県環境創造センターにて、安積高校SSHクラス2年生9名を対象に、環境データ解析に関する研究体験講座を実施しました。
午前中は、五味馨室長による講義「環境・社会のデータサイエンスで地域を視る」が行われました。講義では、統計解析の基本概念からはじまり、環境問題や社会現象を数量的に捉えるための視点や手法について学びました。
「データサイエンスとは何か?」という問いを軸に、相関の考え方や回帰分析の基礎に触れながら「気温とアイスクリームの売上」や「CO₂排出量とGDPの関係」といった身近な例を通じて、統計的なものの見方を紹介。生徒の皆さんは、統計に対する理解を深めていきました。
また、統計解析ツールであるR言語の基本操作についても解説があり、生徒たちはRStudioを使って、散布図の作成や相関係数の確認など、基礎的なスクリプトを実際に試しました。
午後の演習では、福島県市町村の統計データを用い、それぞれの関心に基づいて仮説を立て、解析に取り組みました。R言語を用いたグラフ化や相関係数の算出を通じて、実践的な統計解析を体験する機会となりました。
例えば、「エネルギー消費量と人口の関係」をテーマにしたグループは、「人口が多いほどエネルギーの総消費量が増える」と仮定し、実際のデータで検証。全体の消費量は仮説通り強い正の相関を示しましたが、一人当たりの消費量については予想と異なる結果が出るなど、考察を深めていました。
他にも、「産業別就業者数と人口の相関」や「平均気温と米の収穫量の関係」、「震災前後の転入転出の動向」など多様なテーマに取り組み、それぞれが独自の視点で結果をまとめ、発表まで行いました。
講座の締めくくりとして開かれた小発表会には、講師・スタッフのほか、高校の先生や関係者が参加。生徒たちの成果を共有し、拍手が送られました。
五味室長からは「各自が関心を持ったデータをもとに仮説を立てて、考察までたどり着いたことが素晴らしい」との講評がありました。
限られた時間のなかでの講座でしたが、生徒の皆さんにとって、統計的思考やデータ解析の面白さを体感できた機会になっていればうれしいです。(日下部 直美)



8月1日 福島高校
8月1日、福島高校SS(スーパーサイエンス)部の1年生8名が福島拠点の講座に参加しました。
午前は前回同様、データサイエンスの基礎とプログラミングの基本を学びました。
プログラミングの経験がある参加者も、R言語は初めてとのこと。他の言語との共通点を見つけたり違いに驚いたりしながら練習を進めていました。
午後は、実際の福島県の市町村データを使って、解析の演習を行いました。
イメージした通りにプログラムが動かず悪戦苦闘するペアもあれば、プログラムは動いたのに統計解析の結果が想像と違っていたペアもありました。
この日も最後に、各ペアが演習の結果を発表しました。
あるペアは近年の暑さに注目し「観光客は涼しさを求めて福島を訪れているのではないか?」という仮説のもと、「県内自治体の年平均気温」と「観光客の人数」との関連を調べました。
その結果、「県内自治体の年平均気温」と「観光客の人数」との間には弱い相関があることがわかりました。
ところが、仮説と異なるところも見つかりました。年平均気温が高い地域の方が観光客の人数が多い傾向にあったのです。
ここで終了の時間がきてしまったため、なぜ仮説と異なる結果が出たのかを考察するまでは至らなかったそうですが、自分たちのプログラミングで得られた結果を見ながら悩む様子から、しっかりとデータサイエンスを楽しんでくれていたことが伝わってきました。
五味室長はそれぞれの発表を聴き「相関係数で思ったような結果が出なかったペアもありますね。実はこれも、関係があまりないことが分かった、という大事な発見です。いろいろなことを試して、データサイエンスの面白さを感じてください。」とメッセージを伝えました。
入学からまだ4か月しか経っていない高校1年生のみなさんには、プログラミングも統計解析も同時に学ぶこの講座は少し難しいところもあったようです。それでも時間が足りなくなるほど集中して取り組んでいた様子が印象的でした。(伊藤 由美子)



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概要
- イベント名
- 環境創造センター研究体験講座(コミュタンサイエンスアカデミア ネクスト)
- 開催日時
- 2025年7月17日(木):福島県立安積高等学校SSHクラス2年生
2025年8月1日(金):福島高等学校SS部1年生 - 会場
- 福島県環境創造センター
講師
五味 馨
京都⼤学⼤学院⼯学研究科、2016 年より国立環境研究所 福島地域協働研究拠点に着任。専⾨は地域統合評価モデルによるシミュレーションを活⽤した持続可能な将来社会ビジョン。