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2025.06.13

盤州干潟で合同調査が行われました

調査の様子
コアサンプラーを使って一定体積の砂を掘り取った痕。砂はふるいにかけ、ふるい上に残った底生動物(ベントス)の種類と数を記録します。手前に見えるのは折りたたみ式のコドラート(50cm四方の方形枠)。干潟の上に枠を置いて、中にいるベントスを全部数えます。

東京湾に広がる盤州干潟

梅雨を間近に控えた2025年6月11日から13日まで、盤州(ばんず)干潟においてS-23とモニタリングサイト1000の合同調査が行われました。盤州干潟は、千葉県を流れ東京湾に注ぐ二級河川、小櫃川(おびつがわ)河口付近から東京湾に広がる干潟で、広さ約1400haの広大な砂干潟です。東京湾アクアラインのアクアブリッジ陸側周辺に広がっています。

モニタリングサイト1000ってなに?

合同で実施されたモニタリングサイト1000とは、日本の自然環境を把握するために国が実施している調査で、日本全国に1000箇所以上の調査サイトを設置し、長期的にモニタリングを続けることで環境の変化をすぐに把握できるようになることを目的としています。

調査風景
モニタリングサイト1000(モニ1000)調査の調査旗が風にはためいています。この日の調査開始時は猛烈な風が吹いていて、旗やバケツが空を飛びそうでした。
調査風景
ヨーイドン!で参加者みんなが干潟の生きものを探します(定性調査)。調査の後で、各自が見た種を野帳に記録しているところです。

強い風と雨と

今回はS-23テーマ2のリーダー金谷さんをはじめモニタリングサイト1000に関わるいつものメンバーも合流しての調査です。

初日は雨と強い風が吹きつけるなか、遮るもののない干潟で強い風と雨を全身で受け止めながらも調査に集中する調査員たち。しかし悪天候とはうらはらに、干潟の生き物たちはそれぞれ自分のテリトリーの中でいつものとおり、悪天候なりに自分のすべきことをしているかのようでした。こちらが少しじっとしているとひょこひょこと出てきて動き回る小さなカニたち。海藻に隠れたエビたち。のこのこ動く小さな貝。砂に隠れた貝や見えないほど小さな生き物たち。調査員たちはそれぞれの種類を見つけては記録にとどめながら、次々とポイントをまわり、数値を測り、サンプルを採取していきます。午後になって天気が穏やかになり、蒸し暑くなっても黙々と調査を続けます。

蒸し暑さに負けない熱意!

2日目、3日目は晴天でした。晴天時には生き物たちの活動も雨の日とは違うようです。どんな種類が生息しているのか、例年と比べてどうか、生き物や干潟の状態の変化を見つけようと調査員たちの目も真剣です(もちろん調査用のサンプル以外はすべてリリースしています)。ときおり珍しい生物を発見すると、蒸し暑さも忘れて皆で集まって「すごいですね!」とねぎらい合う、そんな熱意と優しさのある研究者たちによって調査は着々と進められていくのでした。

調査風景
干潟上をわらわらと這い回るアシハラガニ。盤州干潟のヨシ原周辺に大きな穴を掘って暮らしています。下に見える巣穴はコメツキガニ。砂の表面の小さな有機物を濾し取って食べ、砂団子を巣穴のまわりに並べます。緑色の葉は、海水の影響を受ける湿地(塩性湿地)にだけ生える塩生植物ハママツナ(千葉県 重要保護生物(B))です。
調査風景
盤州干潟で見られる巻き貝の中では最大サイズであるアカニシの殻に暮らすヤドカリのコブヨコバサミ。大型のヤドカリで、二つのハサミが同じ大きさであることがこの仲間の特徴です。同じく盤州でよく見られるユビナガホンヤドカリは右のハサミが大きく、テナガツノヤドカリは左のハサミが大きいです。
調査風景
タカノケフサイソガニ。ハサミに大きな毛の房(ケフサ)があります。内側と外側でケフサの大きさが同じであればタカノケフサイソガニ。外側の方が小さければ別種のケフサイソガニです。東京湾の内湾域では転石の隙間やカキ礁などに極めて普通に見られます。
調査風景
二枚貝を襲って食べるツメタガイの仲間です。殻の雰囲気から、おそらく死殻とおもわれます。本種は日本の干潟に昔からいる在来種です。
調査風景
外来性のツメタガイの仲間、サキグロタマツメタ。盤州でも干潟上を這う姿がよく見られます。仙台湾の干潟ではアサリへの食害が大きな問題になりました。

今回の調査の意義

今回の調査によって、S-23テーマ2の干潟の生態系を知る手掛かりとしての重要な基礎データが、また一つ追加されました。

このような一つ一つの作業が積み重なって、この盤州干潟にはどんな生態系があるのか、自然環境の特徴や生物多様性を知ることができます。また温暖化、気候変動により環境影響で変化していく生き物たちの実態もうかがい知ることになります。

調査の様子
砂に隠れようとするヤマトオサガニ。本当はもう少し泥っぽい干潟に生息する種類なのですが、うっかり砂のある方まで歩いてきてしまったのかもしれません。

調査に参加された皆さん、暑い中の作業、本当にお疲れ様でした!

写真のキャプション 金谷弦(国立環境研究所)