研究成果

セイヨウオオマルハナバチの生態リスク評価と対策に関する研究

セイヨウオオマルハナバチと花

農業用花粉媒介昆虫セイヨウオオマルハナバチ

セイヨウオオマルハナバチはヨーロッパ原産のハナバチです。トマトなどのハウス栽培作物の花粉を連んで実を作るのを助ける昆虫として、ヨーロッパで商品化開発されました。マルハナバチを使うとトマトは種が出来て、甘くて、ジューシーな実を作ることが出来ます。これまでホルモン剤散布によって実を作っていた農家の人達もマルハナバチのお陰で、作業が軽減され、生産性向上にもつながりました。


世界各地で使用されているセイヨウオオマルハナバチ商品コロニーの図 セイヨウオオマルハナバチはヨーロッパの工場で商品コロニーが生産され、世界中で使用されています。日本にも1992年から本格的に導人が開始され、現在1年で約70,000コロニーが使用されています。最近では日本国内にもセイヨウオオマルハナバチを増殖する工場も出来ました。また、隣の韓国や中国でも、セイヨウオオマルハナバチの増殖事業を始めています。オーストラリアも2006年から園芸作物用にこのハナバチを導人することを決定しました。今や、セイヨウオオマルハナバチは世界中で役立つハチとして飛び回っているのです。


セイヨウオオマルハナバチは日本のトマト生産に大きな貢献を果たしていますが外来種のため、野外に逃げ出した場合、日本の生態系に悪影響をもたらすことが心配されます。特に日本にも在来のマルハナバチが生息しており、セイヨウと在来マルハナバチの聞で様々な生物間相互作用が生じることが予想されます。
国立環境研究所ではセイヨウオオマルハナバチの野生化に伴う生態リスク評価を進めるとともに、リスク低減のための対策を検討するプロジェクトを推進しています。


オオマルハナバチの割合グラフ

在来マルハナバチとの競合

セイヨウオオマルハナハチと日本のマルハナバチが餌や営巣場所を巡って竸争し、日本のマルハナバチを負かしてまうことが心配されます。実際に北海道の花畑で花に来るハチの種類を調査した結果、年々、セイヨウオオマルハナバチの割合が増えていることが明らかにされています。



在来マルハナバチとの交雑

セイヨウオオマルハナバチと日本のマルハナバチが交尾して日本のマルハナバチの生殖を攪乱することが心配されています。実際にに実験室でセイヨウのオスが日本のマルハナバチと交尾すること、授精すること、そして受精卵は孵化できないことが明らかになっています。さらに野外の女王バチの受精嚢(オスから受け取った精子を蓄えておく器官)を調べた結果、セイヨウオオマルハナバチの精子DNAが存在する事例が確認され、野外で交尾が起きていることが示されました。


セイヨウオオマルハナバチの体内から発見されたマルハナバチポリプダニのメス成虫とその卵の写真

外来寄生生物の持ち込み

セイヨウオオマルハナバチの商品コロニーの輸入に伴い、外国産の寄生生物がいっしょに日本に持ち込まれ、在来のマルハナバチに感染する恐れがあります。実際に商品個体の体内から寄生ダニが発見されており、日本の野生マルハナバチへの感染も確認きれています。



在来植物の繁殖阻害

セイヨウオオマルハナバチは舌が短いため、花の蜜まで舌が届かないとき、花の側面に穴をあけて蜜を吸います。これを盗蜜と言います。盗蜜された花は正常に花粉が媒介されず。種を取ることが難しくなります。セイヨウに訪花された花は繁殖が阻害される恐れがあります。

セイヨウオオマルハナバチに代わって、在来のマルハナバチを商品化する試みも始まっています。既に、在来種クロマルハナバチは大量増殖に成功し、ヨーロッパの会社で生産されたコロニーが輸入されて使用されています。しかし、在来種もそれぞれ日本列島の中で生息域が限られており、それを移動させることは、やはり外来種問題として慎重に議論する必要があります。例えばクロマルハナバチは北海道には生息していません。国立環境研究所では、在来種の適正利用についても検討を進めています。

研究の結果からセイヨウオオマルハナバチは、日本で野生化した場合に、日本のマルハナバチや植物に対して悪影響をもたらす恐れが高いことが示されました。これを受けて環境省では、このハチを「外来生物法」によって規制することにしました。しかし、セイヨウオオマルハナバチは農業生産に欠かせないハチであり、ハチが逃げないようにハウスにネットを張り、使用済みの巣箱をきちんと処分するなどの対策により、生態リスクを低減し、安全に使用する方策が検討されています。また、農家の人達への説明会も各地で行われています。

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