「新地町地域エネルギー国際フォーラム」開催報告

2017年9月5日 於 福島県新地町農村環境改善センター大集会室
2018.1.18

新地町は、大きな災害からの復興に向けた新しいまちづくりと、エネルギーの地産地消という二つの課題に取り組んでいます。国立環境研究所では震災後に新地町が環境未来都市に指定されたことを契機に、町での復興の計画や検討をお手伝いしてきました。 新地町の考える未来とはどのようなものなのでしょうか。また、どのようにしてその構想を実現していくのでしょうか。今回の「新地町地域エネルギー国際フォーラム」では、これらの点について真摯に意見を交わす貴重な機会となりました。本記事ではその内容について報告したいと思います。新地町のこれからのまちづくり計画について様々な立場の方々と共有するとともに、ドイツのザーベック町側との意見交換も目的としました。開催当日は、地元企業、町民の方々を中心に約120名の参加がありました。

1. フォーラム概要

日時:平成29年9月5日(火)14:00〜16:30
場所:福島県新地町農村環境改善センター大集会室 
主催:新地町、環境省(日独自治体連携事業の一環)、国立研究開発法人 国立環境研究所

開催プログラム
14:00-14:10 開会挨拶 新地町 加藤憲郎町長
14:10-14:25 招待報告1 「福島イノベーション・コースト構想」
福島県企画調整部 国際研究産業都市推進監兼政策監 林千鶴雄氏
14:25-15:05 基調講演1 「ドイツにおけるエネルギーから地域おこし」
Mr.Wilfried Roos ドイツ・ザーベック町長
15:05-15:15 休憩 
15:15-15:30 報告1 「新地駅前から始まるあたらしいまちづくり」
新地町都市計画課 課長 加藤伸二氏
15:30-15:45 報告2
「新地町における新たなエネルギーインフラ事業『新地町スマートコミュニティ事業』」

新地町企画振興課 課長 泉田晴平氏
15:45-16:00 特別報告
「新地高校生による新地町の未来への提案~新地からの地域共生まちづくり~」

福島県立新地高校生(濱野涼太さん 高橋みきさん 宇佐美裕基さん) 
16:00-16:10 報告3
「新地町の地域創生の将来ポテンシャル-新地からの新しい地域エネルギーシステムへ-」

国立環境研究所 社会環境システム研究センター長 藤田壮 
16:10-16:30  総合討論 フロアからの質疑
16:30 閉会 

2.発表内容一部紹介

①開会挨拶(新地町長 加藤憲郎氏)

加藤町長のお話では、新地町が町民の皆さんの住まい再建に着実に取り組んできたことや、新地駅周辺地区の再開発事業に取り組んでいることが紹介されました。特に駅周辺の再開発事業については、様々な計画があり、そのうち民間事業として複合商業施設や宿泊・温浴施設等を配する他、スマートコミュニティ事業としてエネルギーを地産地消する地域のモデルともなるようなまちづくりも進めています。まだ復興の途中ではあるものの、交通網の拡充や人口の増加傾向など、今後の発展に大きな期待を持てる現状があることを示していました。

②「福島イノベーション・コースト構想」の紹介
(福島県企画調整部 国際研究産業都市推進幹事兼政策監 林千鶴男氏)

福島県は「福島イノベーション・コースト構想」という計画を進めています。これは、特に被害の大きかった福島県沿岸部の浜通り地域の産業を復興させるため、ロボットやエネルギー、リサイクルといった最先端の産業を集積させる核となる拠点を整備するものです。その取組の一つとしてスマートコミュニティの推進があり、新地町を始めとする浜通り5市町村において計画策定や構築に向けた事業が始まっていることが紹介されました。

③基調講演:ザーベック町の取り組み
(ドイツ・ザーベック町長 Wilfried Roos氏)

ドイツ・ザーベック町長のWilfried Roos氏が、ザーベック町での再生可能エネルギー事業について紹介しました。ザーベック町では再生可能エネルギーパークをつくり、風力発電、太陽光発電、バイオマスによるコジェネレーション(電力と熱の供給)などの事業に取り組んでいます。その中でも特徴的な点は事業の全体にわたって町民の積極的な参加を促していることです。ガラス張りのエネルギーセンターでは再生可能エネルギーの仕組みや現在の発電量などが見られるほか、幼稚園生から高校生までを対象としたエネルギー学習や、町民の100%出資による風力発電に取り組んでいます。このようにして町で利用するエネルギーの3倍以上のエネルギーを生み出しています。また、再生可能エネルギー産業が若い世代の定住の促進にもつながるなど、町の活性化にも役立っています。こうした取り組みをしているザーベック町には世界中から多くの人々が視察に来るそうです。

④「新地町駅から始まるあたらしいまちづくり」
(新地町 都市計画課 課長 加藤伸二氏)

主に新地駅前の開発を含む、町全体の復興についての模索、産学官が連携したまちづくりについて紹介しました。新地町が行っている事業は主に3つ挙げられました。まずは被災市街地の公共施設やインフラ整備と、宅地造成を一体的に行う事業です。次に、復興の拠点とする公共公益施設整備のために、用地を買収し準備を進めている事業です。最後に、住宅、公共施設や防災用空地など目的別に区画整理を促進する事業です。町全体のまちづくり構想について国立環境研究所も参加しながら、官民連携の整備を行っています。今後は、エネルギーセンター(*1)やスポーツ施設、商業施設、町民の交流センターなどの建設を予定している他、温浴施設や宿泊施設、スマートアグリ施設(*2)などの整備事業も民間事業者と進められています。

*1エネルギーセンター:新地町でのエネルギー事業について学ぶことができる施設。
*2スマートアグリ施設:LNGから電気を発電した際に出る排気を利用して農業を行うことができる施設。

⑤「新地町における新たなエネルギーインフラ事業・スマートコミュニティ事業」
(新地町 企画振興課 課長 泉田晴平氏)

新地町では特徴的なスマートコミュニティ事業が進められています。現在、相馬港のLNG基地の建設計画が進んでいて、将来的にはその基地から供給されるエネルギーと、できる限り再生可能エネルギーも利用しながら、新地町内でエネルギーを地産地消するという計画です。これは災害時にも機能する自立的な地域のエネルギー供給システムをつくっていくことにつながります。同時に、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入し、電機や熱を町全体で効率的に運用する仕組みづくりも目指しています。低炭素化を目指すという特徴をもったまちづくり事業を進めていきますが、この運営主体としては町としてだけではなく民間事業者も巻き込んで、特別目的会社を立ち上げたいと考え、実際に協議や準備を進めています。

⑥特別報告「新地町の未来への提案」:福島県立新地高校生
(福島県立新地高校 3年 濱野涼太さん・高橋みきさん・宇佐美裕基さん

新地町にある福島県立新地高校は、福島県教育庁の事業である「先駆けの地における再生可能エネルギー教育推進事業」実施校に選定されました。その事業を通して3名の新地高校生が、温暖化の仕組みや影響、スマートコミュニティについて、そして新地町で進められているまちづくりについて学習しました。それらの学びを通して、「新地町の未来への提案」として3つの提案をまとめ、それらについて発表しました。1つめが「スマートコミュニティを活用するまちづくりへ」、2つめが「エネルギー自給200%のまちづくりへ」、3つめが「町全体へ広がるまちづくりへ」としました。それぞれについて具体例を示しながら提案内容を紹介しました。例えばエネルギー自給200%のまちづくりについては、風力と太陽光発電を組み合わせた場合、これらをどれくらいの規模で導入すべきか、などについても検討しました。同時にそれ以外の再生可能エネルギー(波力、洋上風力、小型水力など)を組み合わせることも有効ではないかと提案しました。

⑦「新地町の地域創生の将来ポテンシャル」
(国立研究開発法人 国立環境研究所 社会環境システム研究センター長 藤田壮)

今回のフォーラムの主催組織の一つである国立環境研究所の藤田は、新地町がもつ3つの可能性について強調しました。「エネルギーの地産地消」、「ITによる新たな社会の絆(Society5.0)」、そして「住民参加(公共財)」です。1点目については、都市計画とエネルギー産業がそれぞれに進められるケースが多い中で、新地町が進めている駅前開発事業はそれらが一体に進められ、エネルギーの地産地消の一つのモデルになるのではないかと提起しました。2点目については、スマートコミュニティ化の促進、つまりITのさらなる活用によってより生活が便利になる取り組みにおいても新地町は先駆的な事例となる可能性を示しました。3点目の住民参加については、ザーベック町の取り組みを今後参考にしていくとよいのではないかと提案したうえで、ザーベック町では住民参加の機会の創出に力を入れていることに言及しました。最後に、福島県、新地町、ザーベック町、そして研究者といった様々な関係主体の連携によって、町、県、国の将来に向かって新しいモデルとなる地域を創っていくためには、これからも議論を重ねチャレンジしていくことが必要だと述べました。

3.質疑応答

質疑応答のセッションでは、ザーベック町気候変動計画局のGuido局長からのコメントに始まり、主にザーベック町での取り組みの中でも住民参加に関する質問が寄せられました。Guido局長は高校生の発表にもあったように、具体的な目標を立てること、そしてそれに向かって戦略を立てることがまず重要であると述べました。そのうえで、複数の再生可能エネルギーを組み合わせて導入することや、新地町はザーベック町よりも風力発電のポテンシャルが高そうなので、是非検討されてはどうかとも提案していました。質疑応答の際、住民参加に関して「(風力発電などの導入などに)反対意見を持っている住民をどう説得したのか」という質問がありました。この質問に対してRoos町長からは、計画段階から住民を巻き込み、風力発電の効果や影響について話し合ったことや、導入については町議会で「小口投資(主に町民による投資)を重要視する」と決定したことについて紹介しました。住民自らの出資によって導入すると決めたということになります。また、「小口投資家の人数は増えているのか」という質問に対しては、投資すべきプロジェクトが現在はないため、新規には増やしていないとのことです。最後に、「ザーベック町では、今後どのような事業を計画しているのか」という質問に対しては、新たに風力発電を建設中であることや、カーシェアリングの導入を考えているとのコメントがありました。

4.まとめ

今回のフォーラムでは、高校生から新地町長まで様々な立場から新地町の未来に向けた考えや実際の再開発計画が紹介されました。また、ドイツ・ザーベック町のRoos町長とGuido気象局局長からのコメントでは、住民参加と、次世代につなげるための教育の重要性が強調されました。これからの世代も新地町の未来に希望を持てるような、まちづくり・学びの場づくりが重要となることを改めて共有しました。
先進的な取り組みを進める新地町の次なる課題は、今後も様々な議論が行われていく中で、関係各主体の参加する機会を設けることを改めて確認いたしました。