大きくは2つあります。1つは、適応策にもいろいろな方法があるので、それらをどう組み合わせるとよいかなどについて研究していきたいですね。そういうのって今まで机上では示せていても、例えばコメに関しても、品種改良をしましょうと言っても、実際にはコシヒカリの方がおいしいから売れるし、品種は変えたくないとおっしゃる方もいます。では変えるときにどの品種にすればいいか、となっても、たくさんあるから選んでくださいとなってもそれはそれで難しい。品種を変えた時に本当に売れるのかとか、ほんとに収量を取れるのかとかいろいろな問題があると思うんですけども、そういう実際の解決のとこまで定量的に解けたら面白いなと思っています。
例えば洪水が起きたとして、じゃあ洪水が起きない場所に引っ越しましょうと言われても、そんなにすぐに自分の家を捨てていけないですよね。そういうところも考えて、意識調査をしたり、移り住む費用の計算をしたり、そもそもそういう土地があるのかも調べないといけません。その新しい土地に住んだときに、生活や経済が成り立つのかとか考えないと、ただみんな逃げなさいと伝えても実際には実現しないと思うんですよ。そういう実装のところまで踏み込んだ研究ができると、ほんとに科学が現実までつながるのかなと思います。
ただ気候変動の影響予測の結果を渡すだけではなくて、○○の段階ではこうする、××の段階までいったらこうする、など前提と行動の選択肢を全部準備できると良いですね。そういうところを研究として深堀りしていきたいなとは思います。
選択肢を、定量的に道筋を幾つも示せると、関係者が話し合いができるようになって、例えば「人口が減ってきてるから、みんなでこっちの土地に移動しよう」となることもあれば、「いや、もう絶対動きたくないからしっかりもうお金払ってでも守って、堤防を造ろう」となることもあるでしょう。それはそれでいいと思うんですよね。そこに住む人の気持ちは大事ですよね。しかしながら、それが大体どれぐらいのコストで、その堤防を造ったからといって本当に守られるのかとかは考えた方が良い。台風15号、19号の様な被害も、100年に1回なのか、10年に1回なのか、そういうリスクの部分をきちんと示せないといけません。ただ単に「ここは危ないから適応しなさい」では嫌だと思うんですよね。そのためにちゃんと可能な道筋を見せられると、じゃあ自分の孫のためにこうしておきたいと思ってもらえるかもしれません。そういう道筋まで示す研究を狙ってみたいなと思っています。
こういう研究は1人ではできません。多くの研究者の方と一緒に進めて、農業や防災だけではなくて、じゃあこういう社会像だったらどうだとか、働き方はどうなるかとか、そういう条件まで見せられるようになると良いですね。それが今後進めるS18で研究できることを期待しています。
あともう1つは、そうはいっても将来って不確実だから怪しく思うこともありますよね。なので、過去をみて、本当に気候変動の影響が増えているのかとか、人間が対策して実際に対応できているのかを検証する。こういう研究は、世界的にも少ないです。例えばサンゴの白化が増えてるとか、分布が北上してるとかの話は人間があまり介入しないので、純粋な気候変動の影響として比較的分かりやすいです。一方で洪水については、報道でも地下の貯留施設がうまく使えたから浸水しなかったとか、ダムの操作が効果的だったとか言われているように、人間が気候変動の影響による被害を減らそうと何とか頑張るわけですね。そうすると気候変動の影響で降水量が増えた分と人間が頑張って適応した分で見えなくなってしまうような気候変動の実質の影響がたくさんあります。こうした努力をすることはもちろんいいことです。それに加えて、将来に向けて、今後またたくさん雨が降ったときに今の施設で大丈夫かどうかとか、今までのやり方が効果的だったかを知ることも重要です。そういう過去から現在までのデータを解析することもやりたいなと思っていますが、まだやってみようと取り組み始めたばかりです。