今年は「猛暑」が取り上げられることが多かったですね。今回の記事では、これから私たちが考えるべき暑さ対策について、一ノ瀬主任研究員に聞いてみました。
今年は「猛暑」が取り上げられることが多かったですね。今回の記事では、これから私たちが考えるべき暑さ対策について、一ノ瀬主任研究員に聞いてみました。
2015年に東京都の熱中症搬送者数が3000名を超え、うち死亡者数も100名を超えたことで、夏の暑さが深刻な社会問題として認識されることになりました。今年2018年は8月に入った時点ですでにその数を上回る異常な猛暑となっています。とりわけ10以上の都道府県で40℃超の気温が観測されています。
この猛暑の原因としては、地球温暖化や北半球スケールでの異常気象との関連に加え、都市化が進むことによる都市の高温化現象(現在「ヒートアイランド」という言葉で表現されている)も指摘されています。
都市化の進行により都市の地表面は、土壌や緑地などからアスファルトなど、水分を含まず、しかも大気を加熱しやすいものへと転換してきました。アスファルトの地表面は、夏季晴天時の日中には50~60℃という相当の高温に達します。一方、冷房や自動車交通など、都市のエネルギー消費活動による排熱も、大気を加熱する大きな要因となっています。
このように深刻化する都市の高温化に対し、これまでとられてきた対策として、①エネルギー消費に伴う人工的な排熱を減らすこと(例えば省エネの実施)、②都市の地表面を加熱しにくい構造・素材に改変すること、③都市の風通しを確保すること、の3つが主に検討されてきました。具体的な方策としては、建物の緑化、保水性舗装の使用、壁面の淡色塗装、屋根材の反射性能の向上などによる冷房負荷の削減、緑地の保全・整備、小河川の開渠化(かいきょか)や公園における水面の整備、大規模緑地や業務施設の再配置などがあげられます。しかし街路空間の材料や形状の改善の効果やそれらの適用に関する知見の蓄積は十分なレベルにあるとはいえず、具体的な街区設計への応用も進んでいません。これらの対策には空調利用の削減など,都市の省エネルギー・低炭素型化や、温暖化への適応策、そして都市の局地的な大気汚染対策としての貢献も同時に期待されています。
また、まちづくりへの住民参加を通じて、こうした施策の実現可能性を高めていくことも必要と考えられます。具体的には、①街路樹の下で人が休めるような空間やクールスポットの設置(トイレ、あずま屋など)、②子供が川辺で水遊びができるような空間の創出、③風通しのよい空間の確保や室内気候環境の改善、④人体にやさしい舗装素材(保水性素材など)の利用、などへの貢献が期待されます。
さらに、わたしたちのライフスタイルを猛暑日にも適応できるものにしていくことも必要です。取り組むべき具体的な行動として、①着衣による調節、②屋外での作業を控える、③運動時間(作業時間)をずらしたり短くする、④水分をこまめに取れる環境を用意する、⑤睡眠を含めた体調管理、⑥熱中症そのものに対する啓発、などが考えられます。そのなかには、家屋の西側に落葉樹を植えることや夕方の打ち水など、古くからの生活の知恵として知られているものもあります。
以上で述べたように対策には、都市計画のような大きなスケールのものや、建築材料のような小さなスケールのものもありますが、外出時における衣服の色彩を賢く選択することも、誰もがすぐに取り組める有効な対策です。写真は同じ材質同じデザインで色違いの衣服を用いた実験の様子です。太陽からは目に見える可視光線のほか、それよりも少し波長の長い近赤外領域の放射エネルギーも地表に降り注いでおり、物体に吸収された場合は熱に変わってしまいます。緑の衣服は、赤の衣服にくらべて太陽からの放射エネルギーをよく吸収するため、炎天下に5分ほどいただけで、衣服の表面温度に10℃近い温度差が生じています。