これからの暑さ対策とは?〜ヒートアイランドに関する研究から〜

執筆:一ノ瀬俊明
2018.8.31

今年は「猛暑」が取り上げられることが多かったですね。今回の記事では、これから私たちが考えるべき暑さ対策について、一ノ瀬主任研究員に聞いてみました。

このTOPICのポイント

 
  • 最近の猛暑の原因の一つとして、都市の高温化現象(ヒートアイランド)が考えられる
  • ヒートアイランドの対策として、街のデザインとライフスタイルの両方の変化が必要
  • 「気温低減」と「高温への適応」の両輪で取り組む

猛暑の原因

2015年に東京都の熱中症搬送者数が3000名を超え、うち死亡者数も100名を超えたことで、夏の暑さが深刻な社会問題として認識されることになりました。今年2018年は8月に入った時点ですでにその数を上回る異常な猛暑となっています。とりわけ10以上の都道府県で40℃超の気温が観測されています。
この猛暑の原因としては、地球温暖化や北半球スケールでの異常気象との関連に加え、都市化が進むことによる都市の高温化現象(現在「ヒートアイランド」という言葉で表現されている)も指摘されています。
都市化の進行により都市の地表面は、土壌や緑地などからアスファルトなど、水分を含まず、しかも大気を加熱しやすいものへと転換してきました。アスファルトの地表面は、夏季晴天時の日中には50~60℃という相当の高温に達します。一方、冷房や自動車交通など、都市のエネルギー消費活動による排熱も、大気を加熱する大きな要因となっています。

ヒートアイランドの対策①:街のデザインを変える

このように深刻化する都市の高温化に対し、これまでとられてきた対策として、①エネルギー消費に伴う人工的な排熱を減らすこと(例えば省エネの実施)、②都市の地表面を加熱しにくい構造・素材に改変すること、③都市の風通しを確保すること、の3つが主に検討されてきました。具体的な方策としては、建物の緑化、保水性舗装の使用、壁面の淡色塗装、屋根材の反射性能の向上などによる冷房負荷の削減、緑地の保全・整備、小河川の開渠化(かいきょか)や公園における水面の整備、大規模緑地や業務施設の再配置などがあげられます。しかし街路空間の材料や形状の改善の効果やそれらの適用に関する知見の蓄積は十分なレベルにあるとはいえず、具体的な街区設計への応用も進んでいません。これらの対策には空調利用の削減など,都市の省エネルギー・低炭素型化や、温暖化への適応策、そして都市の局地的な大気汚染対策としての貢献も同時に期待されています。
また、まちづくりへの住民参加を通じて、こうした施策の実現可能性を高めていくことも必要と考えられます。具体的には、①街路樹の下で人が休めるような空間やクールスポットの設置(トイレ、あずま屋など)、②子供が川辺で水遊びができるような空間の創出、③風通しのよい空間の確保や室内気候環境の改善、④人体にやさしい舗装素材(保水性素材など)の利用、などへの貢献が期待されます。

ヒートアイランドの対策②:ライフスタイルを変える

さらに、わたしたちのライフスタイルを猛暑日にも適応できるものにしていくことも必要です。取り組むべき具体的な行動として、①着衣による調節、②屋外での作業を控える、③運動時間(作業時間)をずらしたり短くする、④水分をこまめに取れる環境を用意する、⑤睡眠を含めた体調管理、⑥熱中症そのものに対する啓発、などが考えられます。そのなかには、家屋の西側に落葉樹を植えることや夕方の打ち水など、古くからの生活の知恵として知られているものもあります。
以上で述べたように対策には、都市計画のような大きなスケールのものや、建築材料のような小さなスケールのものもありますが、外出時における衣服の色彩を賢く選択することも、誰もがすぐに取り組める有効な対策です。写真は同じ材質同じデザインで色違いの衣服を用いた実験の様子です。太陽からは目に見える可視光線のほか、それよりも少し波長の長い近赤外領域の放射エネルギーも地表に降り注いでおり、物体に吸収された場合は熱に変わってしまいます。緑の衣服は、赤の衣服にくらべて太陽からの放射エネルギーをよく吸収するため、炎天下に5分ほどいただけで、衣服の表面温度に10℃近い温度差が生じています。

異なる色の衣服を着て、5分間ほど日光に当たったところ、表面温度に10度近い差が生じました。
(黒や緑は温度がかなり高くなり、白や黄色はそれほど上昇しませんでした。)

「気温低減」と「高温への適応」の両輪で取り組む

 近年では、時空間スケールの小さな現象(街区の構造が都市の微気象にもたらす影響など)を対象とした、マンパワー(観測機材)や計算機資源フル活用の傑出した研究が数多く行われてきています。その一方で、人間活動への影響(適応研究)や政策とのつながりなど、人間次元のテーマがまだ弱いとの印象もあります。とりわけ10年前にくらべると政策ニーズは、「都市の気温低減」のような方向性から「都市内クールスポットの創生による都市高温化への適応」のような方向性にシフトしている印象があります。
気象観測の空間密度が粗い都市では、政策立案に必要な都市熱環境の詳細な時空間構造は、短期的な集中観測や数値計算によってしか知りえません。ヒートアイランドは局地性の高い現象であり、精確な実態把握や、集中豪雨などの発生原因解明、都市気候数値モデルによる対策効果予測においても、条件設定や結果検証のため多数地点の詳細な気象データが必要です。都市の街路空間における風通しの性能評価や、風通しの確保による屋外温熱快適性および大気質向上のための街区設計戦略立案といったニーズに応えるべく、IoT技術を応用した新しい高密度(高頻度)観測網の研究も進んでいます

 ドイツでは、緑地の拡充や卓越風向に配慮した街路の設計など、涼しく快適な都市環境の実現、開発に伴う夏季の暑熱緩和に向けたまちづくりを進めるべく、開発の計画段階で都市気候や都市熱環境の知見を取り入れる取り組みがすすめられてきました。ここでは、河川・池沼や緑地などの都市内に展開する自然的要素(環境資源)との位置関係、注目する季節・時間帯や効果(省エネ、暑熱緩和)を考慮する必要があります。また、屋上および壁面緑化や特殊表面素材の適用と街区デザイン(風向との関係)との賢い組み合わせの提示により、屋外温熱快適性や省エネルギー・低炭素、良好な大気質のための街区設計への道が開けます。

「単体の建物だけではなくて、街並みのスケールで暑さ対策をデザインしましょう。」

参考文献

 
  • Lin, Ye & Ichinose, Toshiaki. (2014). Outdoor experiment investigation on the effect of clothing color to surface temperature variation. The Proceedings of the Third International Conference on Countermeasures to Urban Heat Island, 280-291
  • 一ノ瀬俊明(2005)ヒートアイランドに関する最近の研究について, 科学技術政策研究所講演録166
  • 一ノ瀬俊明(2017)気候を活かしたまちづくりの可能性, 科学, Vol.87 No.6, 0507-0509
  • 一ノ瀬俊明(2018)ヒートアイランド現象とその対策, 新都市ハウジングニュース, Vol.89, 1-3