被災地の方々と社会学者が意見を交わし、ともに復興まちづくりのあり方を考える[閖上復興まちづくりの「これまで」と「これから」~社会学者による現地調査の報告会~・開催レポート ]サムネイル
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被災地の方々と社会学者が意見を交わし、ともに復興まちづくりのあり方を考える[閖上復興まちづくりの「これまで」と「これから」~社会学者による現地調査の報告会~・開催レポート ]

被災地の現地調査結果を、被災地の方々に直接お伝えする試み

2023年9月15日、宮城県名取市の閖上公民館にて、「閖上復興まちづくりの「これまで」と「これから」~社会学者による現地調査の報告会~」が開催されました。

2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、日本の社会学者は被災地に入って長期間、現地調査をおこない、被災地の復興過程・被災地域の人々の生活再建の過程を記録・分析してきました。
社会学者による被災地の調査研究成果は、論文や著書のかたちでは公表されていますが、これらが被災地の方々の目に留まる機会はそれほど多くないのではないでしょうか。
この報告会は、社会学者による調査研究の結果を、被災地にお住まいの方々、被災地の復興に関わる方々にお伝えするとともに、被災地の方々と社会学者が意見を交わすことを通じて、望ましい災害復興のあり方について考えることを目的に開催されました。

主催者は社会学者の研究グループであり、2022年度より岩手県大槌町・釜石市、宮城県石巻市・南三陸町で開催されましたが、今回の報告会はこれらの被災地とは地域特性が異なる平野部の大都市近郊都市である、宮城県名取市・閖上(ゆりあげ)で開催されました。

報告会の様子

津波被災地・閖上 の復興まちづくりから導かれる教訓

閖上は、第二次世界大戦前から栄えた港町で、東日本大震災で甚大な津波被害をうけた地域の一つです。
そして閖上は、復興の方針——被災した元の場所にまちを再建するのか(現地再建)、それとも、津波が及ばない内陸の安全な場所に移転してまちを再建するのか(集団移転)——をめぐる合意形成がうまく進まず、行政と住民・住民どうしの対立が深刻化した結果、他の被災地に比べて復興まちづくりが遅れてしまった地域として知られています。

この報告会では、社会学者による現地調査報告と、閖上にお住まいの方・閖上の復興に関わる方と社会学者の座談会が行われました。
現地調査報告では、私(辻)が「閖上の復興まちづくりにおける合意形成過程」、内田龍史・関西大学教授が「被災地アンケート調査からみた名取市の復興とその特徴」と題した講演を行いました。

私(辻)は、「なぜ、閖上の復興まちづくりでは合意形成が難航したのか?」と問いかけ、2012年から閖上で実施したフィールドワーク(現地資料の収集、復興に関わる方へのインタビュー調査など)をもとに、閖上における東日本大震災前後の行政と住民による合意形成・協議体制のあり方を振り返りました。

閖上復興まちづくり推進協議会の委員構成

内田教授は、2021年に閖上(名取市)を含む、東日本大震災の複数の津波被災地で実施したアンケート調査の結果を紹介しました。
調査では被災者が抱える生活の課題(交通の便など)、復興感(「復興している」という実感)などが分析され、閖上(名取市)が他の被災地に比べて、これらの項目についてどのような傾向がみられたのかが説明されました。

座談会では、2つの現地調査報告をもとに、閖上にお住まいの方・閖上の復興に関わる方——町内会、復興まちづくり団体、産業団体などでリーダーを務めた方々——と社会学者(※)が、閖上の復興まちづくりから見えてきた課題や得られた教訓、これからの閖上のまちづくりについて、活発な意見を交わしました。

※座談会には、現地調査報告をおこなった内田龍史・関西大学教授、私(辻)のほか、浦野正樹・早稲田大学名誉教授、長谷川公一・尚絅学院大学特任教授、高木竜輔・尚絅学院大学准教授、野坂真・早稲田大学講師が参加しました。

座談会で現地の方から発せられた意見から、特に私(辻)が印象に残ったものを、いくつか紹介します。
ある方は、「閖上の復興まちづくりが難航・失敗した負の教訓を広く発信する必要がある」と発言されました。被災地の復興まちづくりについて、「成功した」「うまくいっている」事例は、すでにさまざまな媒体で多くが発信されています。
しかし、復興まちづくりが「失敗した」「うまくいかなかった」事例は、なかなか発信される機会がありません。
とはいえ、いずれ大規模な災害で被災を経験するかもしれない、全国各地の地域の方々にとっては、復興まちづくりが「失敗した」「うまくいかなかった」閖上の教訓からこそ、学ぶものが多いのではないでしょうか。

もう一つは、「復興まちづくりの合意形成がうまく進まず、対立が激化していた期間は、閖上の復興について論点や課題を出し尽くす、地域にとっては必要な期間であり、その後の復興まちづくりの土台になった」という発言です。
被災地の復興まちづくりは、1年や2年では終わることのない、とても息の長い試みです。
被災地の方々が、お互いの意見をぶつけ合い、それがたとえ対立につながったとしても、対立から得られるものもあるはずです。
スムーズに、迅速に進められる復興まちづくりばかりが、「望ましい復興」であるとはいえないのではないか。そう考えさせられる発言でした。

いまの閖上は、大都市・仙台に近い地の利を生かして、震災前には住んでいなかった若い世代を多く受け入れ、便利な住宅地としての様相を呈しています。
また、震災前からの地域の名物「ゆりあげ港朝市」、震災後に新たに整備された「かわまちてらす閖上」など、港町としての個性や風情を活かした観光施設が賑わいを見せています。

これからの閖上がどのようなまちづくりを進めるのか、閖上の復興まちづくりから得られた教訓がどのように発信されるのか、一人の研究者として注目し続けたいと思いますし、私に何ができるかを考え続けていきたいと思っています。

読者の皆さんも、ぜひ、いまの閖上に足を運んで、この地域の魅力を味わってみてください。
ここ閖上では、マリンスポーツ(ヨットやサップ)も楽しめますし、新鮮な海の幸(しらすや赤貝など)を堪能することができますよ。

商業・観光施設「かわまちてらす閖上」
東日本大震災後、2019年に閖上でオープンした商業・観光施設「かわまちてらす閖上」。多くの観光客で賑わっている。
写真出典:みやぎデジタルフォトライブラリー(https://digi-photo.pref.miyagi.jp/)

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概要

タイトル
閖上復興まちづくりの「これまで」と「これから」~社会学者による現地調査の報告会~
開催日
2023年9月15日(金)
会場
宮城県名取市・閖上公民館(2階会議室)
対象
閖上にお住まいの方、閖上の復興まちづくりに関わる方
定員
30名
主催
科学研究費・基盤研究A「大規模災害からの復興の地域的最適解に 関する総合的研究」事務局

講師

辻 岳史

国立環境研究所 福島地域協働研究拠点 主任研究員

内田 龍史

関西大学社会学部 教授